第66章 読めない男心

夏川清美は結城邸に戻ると、木村久美はちょうど目を覚ましたところだった。

服を着替え、何度も手を消毒してから、夏川清美は木村久美を抱きしめた。

「早く授乳してあげて」藤堂さんが催促した。赤ちゃんは彼女の母乳をあまり飲まなかった。

夏川清美は頷き、藤堂さんに部屋の入り口を見張ってもらい、赤ちゃんに母乳を与えた。

赤ちゃんはお腹いっぱい飲んで、十時過ぎまで遊んでから再び眠りについた。夏川清美は赤ちゃんの愛らしい寝顔を見つめ、深いため息をつき、緊張していた心が少し和らいだ。

しかし、今日の午後の出来事を思い出すと、彼女の表情は再び厳しくなった。

槙島秀夫はこのまま引き下がるはずがない。

なぜ彼が林夏美の記憶の中の人物と全く異なるのかはわからないが、自分が見た槙島秀夫こそが本当の姿だということは確かだった。

それなら、前の彼女が何年も片思いを続けながらも結ばれなかった理由が説明できる。

槙島秀夫は林夏美を見下していたからだ。

すべての思いやりや優しさ、教養のある振る舞いは、前の彼女の幻想に過ぎなかった。

でも、このような偽善者が突然林夏美に好意を示すのはなぜだろう?

林夏美が生きていた時は一度も連絡を取ろうとせず、一年前に彼女が身を捧げようとした時も現れなかったのに、一年経った今になって積極的に接触してくる。

異常な事態には必ず理由がある。

特に槙島秀夫は今夜、優しい方法が通用しないと分かると強引な手段に出て、さらにホテルに隠しカメラまで設置していた?

政略結婚を望むなら、なぜ彼女の名誉を傷つけようとするのか。これは林明里のやり方によく似ている。

ここまで考えて、夏川清美は唇を歪めた。あの母娘はまだ懲りていないようだ。

足の痛みがまだ足りないのか?

しかし、今日なぜ結城陽祐がホテルに現れたのだろう?

コンコン、コンコン……

夏川清美が考えていると、外から規則正しく控えめなノックの音が聞こえた。

まさに噂をすれば影。

夏川清美は横で寝ている赤ちゃんを見下ろし、そっと立ち上がってドアを開けた。

「藤堂さんは隣で、まだ深く眠っていないわ。何しに来たの?」言い終わって夏川清美は少し戸惑った。この台詞がどこか変な感じがする。

まるで不倫しているみたい。