第68章 夏川清美は槙島秀夫と婚約する?

五月半ば、信州市の夏はその片鱗を見せ始めていた。

結城家の庭園のような古い屋敷は、至る所に生命力が溢れていた。ピンクのバラが至る所に咲き乱れ、階下の池には蓮の葉が芽を出し、瑞々しく可愛らしく佇んでいた。片側には人の背丈を超えるバショウの木が立ち、涼を取るのに最適だった。

夏川清美は暇があれば二階のベランダに座り、揺りかごを揺らしながら日向ぼっこをするのが好きだった。

槙島秀夫はあの日以来、意外にも夏川清美に嫌がらせをしてこなかった。

夏川清美は平穏に半月を過ごし、木村久美はこの世に生を受けて三十九日目を迎えた。

結城お爺さんは暦を見て、今日は良い日だと言い、木村久美のお食い初めを行うことにした。

子供の保護のため、お食い初めと言っても、より家族での祝いに近いものだった。

階下では使用人たちが既に準備を始めており、藤堂さんまでも手伝いに行っていた。反対に夏川清美は子供の世話のため、この屋敷で唯一の暇人となっていた。

退屈のあまり、夏川清美は椅子に寄りかかり、揺りかごの中の赤ちゃんと一緒にうとうとし始めた。

馴染みのある声で目が覚めるまで。

「お前が槙島様を殴ったのか?」林富岡は椅子に座り、起こされて不機嫌そうな夏川清美を見つめながら、いきなり詰問した。

ここ数日、久美が夜泣きで落ち着かず、彼女も睡眠不足だったため、一瞬槙島様が誰なのか思い出せず、問い詰めてくる林富岡を呆然と見つめていた。

林夏美のこの父は知能に問題があるのではないか?

揺りかごの中で起きていない久美を一瞥し、夏川清美の頭はようやくはっきりとし、眠気も消えた。「声を低くしてください。子供を起こさないで。ここは結城邸で、林家の別荘ではありません」

「お前は...」娘のこの無関心な態度に、林富岡は怒りを覚えた。「私は既に結城お爺さんに許可を得た。明日、私と一緒に槙島家に謝罪に行く」

「謝罪?」夏川清美は聞き間違えたのかと思い、そしてこの槙島様が槙島秀夫だと気づいた。

なるほど、この数日音沙汰がなかったのは、ここで待ち構えていたわけだ。

林富岡に告げ口したというわけか。

「何だ?やったことの責任も取れないのか!」林富岡は槙島秀夫の怪我を見た当日に娘を問い詰めようとしたが、明里に止められ、結城湊のお食い初めの機会を待っていたのだ。