「久美ちゃん、泣かないで、いい子だから」夏川清美は真っ先に抱きしめている幼い子をなだめた。
しかし外の車は収まる気配もなく、彼らの車に向かって衝突し続けた。
バン!バン!バン!
今度は立て続けに3回。車が改良されていなければ、とっくにひっくり返されていただろう。
「陽祐さま、まだ病院へ向かいますか?」健二は横から彼らの車に衝突してくる車を睨みつけながら、不機嫌そうに結城陽祐に指示を仰いだ。
「行け」美しい薄い唇から一言。健二は急加速した。
ランドローバーは衝突を避けたが、後ろの3台の車は執拗に追跡を続け、明らかに彼らを追い詰めるつもりだった。
結城陽祐は横の車を一瞥したが、表情はほとんど変わらなかった。
夏川清美は久美の甲高い泣き声の中で、すでに恐怖を忘れ、ただ抱いている幼い子が泣き止むことだけを願っていた。