六月も半ばを過ぎ、信州市の気温は急上昇し、むっとする暑さが漂っていた。
夏川清美は体格がよく、他人より暑さに弱かった。汗を大量にかき、体からいつも甘ったるい香りが漂い、どれだけ洗っても消えなかった。藤堂さんまでも心配して注意するほどで、彼女の秘密がばれないかと心配していた。
幸い、古い屋敷には植物が生い茂り、朝夕は至る所で涼むことができた。
夏川清美は木村久美を押して御苑の池のほとりのバショウの木の下に座るのが一番好きで、涼しい風を感じながら、お爺さまが飼っている錦鯉を眺めることができた。
太くて鮮やかな錦鯉だった。
「食べたい?」夏川清美が錦鯉をぼんやり見つめているとき、馴染みのある声が聞こえた。いつもの通り澄んだ声だったが、夏川清美にはどこか揶揄うような調子に感じられた。特に、その男性が彼女に近づき、最も太くて艶やかな赤い鯉を指さしながら言った。「あなたに少し似てると思わない?」