ドアが開くと、夏川清美は濃い血の匂いを嗅ぎ、顔色が急変した。
健二は我に返り、「清美さん、早く誰かを呼んで二少を助けてください!急いで!」
夏川清美は深刻な表情で研究室に入った。結城陽祐の体のことは誰よりも詳しく知っていた。この血の匂いだけで、出血量が相当多いことが分かった。
手術の途中で先輩たちが連れて行かれただけでなく、たとえ全ての医師が揃っていたとしても、結城陽祐の出血量では、助かる可能性はほとんどないだろう。
木村久美のことで、結城陽祐に対して心に煩わしさを感じていたとはいえ。
彼は結局木村久美の実の父親であり、この頃は彼女にも随分と気を配ってくれていた。今、彼が既に亡くなっているかもしれないと知り、胸が締め付けられるように苦しかった。
特に、彼が初めて彼女の前に現れた時の光景が脳裏に浮かんだ。夕暮れの陽光の中で、彼は神々しく、琥珀色の瞳は金色に縁取られ、その美しさは夢の中にいるかのようだった。