結城陽祐は逃げ出す夏川清美の後ろ姿を見つめ、自分の指先を見下ろすと、思わず軽く微笑んだ。
ぽっちゃりくんは照れちゃったのかな?
夏川清美が病室を出ると、大きなハサミを持って、まるで庭師のような健二と出くわした。「清美さん、お帰りですか?運転手をすぐに呼びましょう」
「うん」清美は小さく返事をした。
しかし健二はまだ続けた。「暑いですか?」
清美は不思議そうな顔をした。
健二は頭を掻きながら、「暑くないんですか?顔が真っ赤になってますよ」
清美は「……」どこが赤いの?どこも……
「病室が少し暑かったの。そうだ、知ってるフィットネスインストラクターを紹介してもらえない?」清美は暑いか暑くないかという話題にこだわりたくなく、急いで話題を変えた。
健二は聞いて、「清美さんはフィットネスを始めるんですか?」
「うん」
「清美さんがフィットネスをするなら、わざわざインストラクターを探す必要はありません。陽祐さんがいますよ」健二は熱心に推薦した。自分の若旦那が断るかもしれないことなど全く考えていなかった。
清美は少し驚いて、「結城陽祐?」
あの人がフィットネスインストラクター?まさか!
健二は清美の表情を見て、やはり予想通りだという顔をして、「陽祐さんは専門のインストラクターではありませんが、専門家以上に専門的なんです」
清美は結城陽祐の体調を知っているだけに、疑わしそうに健二を見た。
健二は気にせず、「ご存じないかもしれませんが、陽祐さんは幼い頃から体が弱くて、自分の虚弱さが嫌いだったので、とても厳しいトレーニング計画を立てたんです。食事から運動まで、すべて緻密に計算されています」
ここまで話すと、健二は神秘的に声を落として、「清美さんは陽祐さんの胸部の手術をしたことがあるでしょう?腹筋が六つパックなのを知ってますよね?全部丁寧にトレーニングして作り上げた完璧な体なんです」
清美は「……」
一体このゴシップ好きな硬派は誰なの?
彼女は以前、健二を実直な人だと思っていたが、それは誤解だったようだ。
さっきの口調といったら、隣の長屋で買い物をしていて向かいの旦那の内緒金を見つけた主婦と何が違うの?
彼女の勘違いだった。健二のこの雰囲気じゃ、結城陽祐とCPを組むなんて似合わない。