第292章 私を不実な男にしたいの?

「うん」結城陽祐は軽く返事をして、夏川清美の目の中の戸惑いを見て、胸の中にまた言い表せない痛みを感じた。

ぽっちゃりくんは母親に会ったことがないようだ。

夏川清美は太っているが、彼女の母親は間違いなく美人だった。

しかし、美しさ以外の情報はとても少なかった。

京都の矢崎家の長女で、その美貌にもかかわらず無名で、林富岡と結婚するために矢崎家と絶縁し、それ以降京都には戻らず、死ぬまで矢崎家とは付き合いがなかった。

しかし、矢崎家の数々の秘伝の薬方を持っており、これらの薬方が富康製薬の初期を支えていた。

結城陽祐は富康製薬など欲しくなかった。ただぽっちゃりくんが母親の遺したものを大切に思っているかどうかを知りたかっただけだ。

夏川清美は富康製薬に元の自分の母親の株式四十八パーセントがあり、それが元の自分に遺されていることは知っていたが、富康製薬を支えていたのも元の自分の母親だとは思わなかった。