「末子さん……」妻が黙り続けているのを見て、林富岡は思わず小さな声で呼びかけた。
鈴木末子はしばらくしてから顔を上げ、「あなた、私たちどうすればいいの?」
林富岡は怒りと後ろめたさを感じながら、「まず彼がどこにお金を振り込んだのか確認してから、決めることにしよう」
「うん」鈴木末子は冷たく返事をした。いつもの優しさや思いやりは全く感じられなかった。
この時、林富岡は焦っていて末子の様子の変化に気付かず、お金がどこに行ったのか確認しようと急いでいた。しかし、電話をかける前に、富康製薬に融資していた銀行の支店長たちから次々と電話がかかってきて、借入金が入金されたことを伝え、今後も取引を続けたいと言ってきた。
電話を切ると、製薬工場の責任者からも電話があり、林富岡が適時に資金を送ってくれたことに感謝し、彼らの緊急の窮地を救ってくれたと。以前の治験被験者への補償金も支払われ、その後の研究資金も確保できたという。
林富岡はそれを聞いて胸をなでおろした。このお金は元々、一部を会社の負債の返済に、残りを予備として取っておくつもりだった。
結城陽祐は直接彼の手元にお金を振り込まなかったものの、会社の債務危機を解決してくれた。製薬工場については、すでに株式を取得した夏川清美に任せるつもりだった。
しかし、残りの資金が全て製薬工場に送られてしまい、彼の計算は外れたが、完全な敗北ではなかった。ただし、鈴木の母娘にとっては違った。
母娘の表情を見て、林富岡は気まずそうに電話を切った。「あの…結城財閥は直接現金を会社の口座に振り込んではくれなかったけど、確かに会社の負債と発展のために使ってくれた。ただ…」
林夏美は林富岡の言葉を聞いて、心の中で冷笑した。つまり、母娘は30パーセントの株式を失っただけでなく、何の利益も得られなかった。
さらに将来はあのデブ野郎の部下になることも受け入れなければならない。
どうして納得できるだろうか?
「あなた、もうこの話はやめましょう」鈴木末子は落ち着きを取り戻し、やっと普通の口調で話した。
「末子さん、申し訳ない」末子がそう言うのを聞いて、林富岡はますます申し訳なく思い、夏美と結城陽祐に対する怒りも極限に達した。