「末子さん……」妻が黙り続けているのを見て、林富岡は思わず小さな声で呼びかけた。
鈴木末子はしばらくしてから顔を上げ、「あなた、私たちどうすればいいの?」
林富岡は怒りと後ろめたさを感じながら、「まず彼がどこにお金を振り込んだのか確認してから、決めることにしよう」
「うん」鈴木末子は冷たく返事をした。いつもの優しさや思いやりは全く感じられなかった。
この時、林富岡は焦っていて末子の様子の変化に気付かず、お金がどこに行ったのか確認しようと急いでいた。しかし、電話をかける前に、富康製薬に融資していた銀行の支店長たちから次々と電話がかかってきて、借入金が入金されたことを伝え、今後も取引を続けたいと言ってきた。
電話を切ると、製薬工場の責任者からも電話があり、林富岡が適時に資金を送ってくれたことに感謝し、彼らの緊急の窮地を救ってくれたと。以前の治験被験者への補償金も支払われ、その後の研究資金も確保できたという。