第317章 まだ手に入れていないのに、もう失ってしまった

「ちっ……」

成瀬美里は舌打ちをしたが、周りの人々の視線を感じ、その中には業界の名士や令嬢たちもいた。目の前のぽっちゃりした女の子を見て、結城陽祐の側に留まるのは簡単ではないだろうと思った。

結城陽祐の婚約式の時、彼女はカンヌにいて現場に行けなかった。ネットユーザーが林夏美をボロクソに批判しているのを見て、本当に醜くて太っているのだと思っていたが、今見ると確かに太っているものの、肌は白くて瑞々しく、目は澄んでいて、雰囲気も優れていて、人に心地よい印象を与えた。

しかし、それだけでは全く足りない。

特に結城陽祐は妖艶な美しさを持つ人物で、彼女の美貌は芸能界でも認められているのに、この人と並ぶと、まだ見劣りしてしまう。まして林夏美なら尚更だろう？

「清美ちゃん、私の言葉を覚えておいてね」この言葉を残し、成瀬美里は結城陽祐の表情を気にせず、くるりと向きを変えて他のお客様の接待に向かった。