「一億円で手術用メスセット?気が狂ったのか?」
司会者だけでなく、会場の人々も藤原悠真が狂ったと思った。
誰が一億円も出して死人が使っていた手術用メスを買うのか?たとえその人が天才だったとしても!
結城陽祐は眉をひそめ、横を向くとぽっちゃりくんが感動と衝撃に満ちた表情をしているのが見えた。あの男が他人のメスに一億円も出すのに、彼女が感動するなんてバカげている。
最後列に座っていた藤原悠真は結城陽祐に申し訳なさそうに頷いた。このメスセットは夏川ちゃんが世に残した最後の遺品だった。夏川お爺さんが怒って手放してしまったが、彼にはそんなことはできなかった。
夏川ちゃんは一生を病院と患者に捧げ、他の面での痕跡は薄かった。このメスセットだけが長年彼女に寄り添い、愛用の品であり、最も大切にしていたものだった。どうして他人に譲れようか?
しかし結城陽祐はそれを見て、冷笑を浮かべた。特に隣のぽっちゃりくんの表情を見て、誰もが手術用メスセットに一億円が限界だと思っているときに、突然再び値を上げた。
「に...二億円?」司会者は目を疑い、声が震えた。
しかし間違いなかった。確かに二億円だった。
会場の人々はもちろん、藤原悠真と加藤迅も凍りついたように結城陽祐を見つめ、理解できずにいた。
二人とも夏川清美のメスセットを手に入れたい理由は互いに理解できた。しかし正陽様は?
彼は夏川清美のメスセットで何をするつもりなのか?
二億円も出して、ただ少し切れ味が良いだけのメスセットを買って何の意味があるのか?
藤原悠真は眉をひそめ、拳を強く握りしめた。一億円が彼の限界だったが、もし自分がさらに値を上げても、このお坊ちゃまがまた上乗せしないとは限らない。
結局のところ、資金力で結城財閥の次男に勝てる者などいるのか?
林夏美も椅子に座ったまま呆然と、隣で好き勝手する男を見つめていた。
後ろの林明里は発狂寸前だった。ピンクダイヤモンドの落札で今夜のチャリティーパーティーの最高額落札者となり、晩餐会でリードダンスを踊れると思っていたのに。
しかし今、結城陽祐は狂ったように、デブ野郎のために二億円も出して死人の古いメスセットを買おうとしている!