医科大学。
夏川清美は寮から教室棟まで歩いていく途中、何となく視線を感じていた。エレベーターに乗ると、その感覚はより一層強くなった。
同じ人に3回も見られた後、我慢できずに尋ねた。「私の顔に何かついてますか?」
「ふふ、林くんですか?触らせてもらえませんか?」色白で短髪の男子は、とても真面目そうな様子で、典型的な書生タイプだった。
夏川清美は「……」
こんなに真面目そうなのに、なぜこんなに大胆な行動をするのか、そのギャップに戸惑いを感じた。
男子は赤面して、「誤解しないでください。変な意味じゃないんです。昨日あなたの近くに座っていて、とても福がある人だと思いました。來福さんがあなたの相は大富大貴で、人型の縁起物だと言っていたので……」
ここまで言って、男子は顔を赤らめた。
夏川清美は目の前の書生タイプの男子を奇妙な目で見て、「だから私に触って、福を分けてもらいたいってこと?」
「はい」男子は興奮して頷いた。
パン!
次の瞬間、岡田千明は本で男子の頭を叩いた。「私たちの清美に触れるなんて、生意気よ!」
書生タイプの男子は岡田千明に叩かれて少し呆然とし、茫然と彼女たちを見つめた。「触っちゃいけないんですか?」
「もちろんダメよ!」岡田千明は夏川清美の代わりに答え、夏川清美の手を取った。「あなたはダメだけど、私はいいのよ、あはははは」
夏川清美は笑いを漏らした。「もういいでしょう。遅刻しそうじゃない?」
他の人は真相を知らないが、夏川清美は分かっていた。自分は縁起物なんかじゃない。昨日あんなに幸運だったのは、おそらく婚約者が大げさすぎたのと、おじいちゃんが演技がかっていただけだ。
縁起物とは全く関係ない。
「あっ、そうだった。急いで!」岡田千明は我に返って夏川清美を引っ張り始めた。そして、まだ呆然としている書生タイプの男子を見て、手を伸ばして引っ張った。「早く来て!」
黒川花音はようやく反応して急いで追いかけた。
彼らの臨床医学には3つのクラスがあり、彼らは02組で、見つけやすかった。
しかし、3人が教室に入るとさっきまでうるさかった教室が突然静かになり、夏川清美は不思議そうに皆を見た。すると、皆も彼女を見つめていた。