電話を切ると、夏川清美は結城陽祐の部屋の前まで歩いていき、しばらく立ち止まってから、ため息をついて自分の部屋に戻った。
この様子を聞いていた男の表情は、ますます暗くなっていった。
そのとき携帯が鳴り、結城陽祐は暗い顔で電話に出た。「話せ」
野村黒澤は体を震わせながら、「動画とキーワードは完全に削除しました。ホテルも特定できましたが、先方は監視カメラは彼らのホテルが設置したものではないと言っています。神崎裕美からも何も聞き出せませんでしたが、これら全ては彼女の従姉妹の指示だと言っていました。その人物は以前誠愛病院の医師で、若奥様のことで解雇されたそうです」
「動画の発信源を調査させろ。ネット上の情報も監視を続けろ。二度と現れるのは見たくない」結城陽祐の口調は平淡だったが、野村黒澤には歯ぎしりするような響きが聞こえた。