第534章 今だけじゃない、毎日だ

「私が来る前に加藤迅の研究室に入ることを断りました」夏川清美は、もしこの男が彼女が夏川清美だということを知っていて、さらに彼女と加藤迅との過去の出来事も知っていたことを知っていれば、今まで引き延ばすことなく、もっと早くに彼に説明していただろう。

この男が加藤迅の前でハリネズミのように警戒するのも無理はない。すべてを知っていたからだ。

彼女の10年間の片思いを知り、叶わぬ恋を知っていた。

だからこそ、そんなに緊張していたのだ。

彼は彼女が加藤迅を忘れられないと思っていた。

だから、あの日彼女と加藤迅が一緒にいるのを見てあんなに怒り、しかも加藤迅がちょうどその時に告白していた。

なのに彼女は男に加藤迅が好きなのは夏川だと説明してしまった……

夏川清美は一時、言葉に詰まってしまった。