夏川清美はここが大好きで、まるでモネの風景画のようだった。
幼い頃から、ここでの生活に憧れていた。それは国が好きだったからではなく、小さい頃に祖父の大切な箱を密かに開けたことがあり、その中には母が残した物が収集されていた。細々とした小物の中に、一枚の絵葉書があり、長い時間をかけてようやくその景色がY国にあることを知った。
そのときから、母がY国にいるという思い込みが生まれた。
彼女はそこで生まれたのかもしれない。
卒業旅行でわざわざY国を選んだが、ロンドンからエディンバラまで歩いても、場所を見つけられなかったのか、それとも都市の発展が絵葉書の風景を飲み込んでしまったのか、結局見つけることはできなかった。
そして、ある大雨の夜に突然嫌気が差した。母は自分を捨てたのに、なぜ自分は母の痕跡を探そうとするのか?
そして慌ただしく帰国した。
ただ、先輩にちょっと話しただけなのに、彼が自分のためにここを見つけてくれるとは思わなかった。
イギリス風の田舎を眺めながら、夏川清美の心の中に時々湧き上がる寂しさが癒されていく。
母には母なりの理由があったのだろう。
病院に長くいると、誰もが苦しみを抱えており、誰も逃れられないと感じるようになった。
母もそうだったのだろう。自分も赤ちゃんの顔を覚えていないが、失ったことを考えるだけで胸が締め付けられる。
そう考えると夏川清美は少し辛くなり、手を伸ばすと頬が濡れていることに気づいた。鏡の中の自分のような、自分ではないような顔を見つめた。
自分はいったいどうしてしまったのだろう?
「また祖父と赤ちゃんのことを考えていたの?」夏川清美が途方に暮れているとき、加藤迅が入ってきて優しく尋ねた。
夏川清美は考えてから頷いた。そうなのだろう。
「もし望むなら、また子供を作ればいい」加藤迅は手に持っていた食べ物を置き、そっと夏川清美の肩に手を置いた。
夏川清美はそれを聞いて、心の中に強い拒絶感が生まれたが、先輩を傷つけたくなかったので、彼の手を避けながら横を向いて「また今度ね、まだ心の準備ができていないの」と言った。