朝食を済ませると、結城陽祐は一団を率いて早々に出発した。
彼らが出発してから一時間後、隣家に一台の車が停まった。
夏川清美は大きな束のチューリップを抱え、ロングドレスを着て、薄手のウールのコートを羽織り、黒い礼装帽を被り、レースのベールで顔を半分隠し、低めのヒールのラウンドトゥシューズを履いていた。彼女は何気なく立っているだけで、その雰囲気に目を奪われずにはいられなかった。
「先に行っていて、私は車を停めてくる」と加藤迅は車の中から夏川清美に声をかけ、車を発進させた。
夏川清美は頷き、チューリップを抱えて別荘に向かった。横を向くと向かいの庭に新しい住人が引っ越してきているのが見え、一瞥して立ち去ろうとしたが、黒くて輝く一対の目と出会った。
なぜか夏川清美の心は軽く震え、その目に引き寄せられ、ベビーカーに座っている子供を見つめていると、まるで魂を吸い取られたかのようだった。
夏川清美は自分が子供に対してトラウマを抱えていることを常に知っていたが、他人の子供を見て、こんなにも制御できないほど心が痛むとは知らなかった。一瞬、駆け寄ってその赤ちゃんを抱き上げたい衝動に駆られた。
「私...一体どうしたの?」夏川清美はその場に硬直したまま立ち尽くした。そのとき、子供のおばあちゃんが母親との会話を終えたようで、顔を向け、赤ちゃんに何か話しかけていたが、赤ちゃんは相手を無視して、まだ彼女を見つめていた。
大人たちが見てくることを察し、夏川清美は感情を抑えきれなくなることを恐れ、急いで別荘の中へと向かった。
「ママ...ママママ...」夏川清美が背を向けた瞬間、ベビーカーの木村久美が小さな手を伸ばし、彼女の後ろ姿を指さしながら、ママと何度も呼んでいた。
雲さんは驚いて、頭を上げると細くて優雅な後ろ姿が見えた。木村久美の小さな頬を撫でながら、「久美ちゃんがまたママを恋しがってるのね。心配しないで、パパはすぐにママを見つけるわ」と言った。
そう言って雲さんは心配そうに木村久美を抱き上げた。
小さな子は首を傾げたまま、小さな手で夏川清美が去った方向を指さし続け、「ママ、ママママ...」と呼び続けた。
立花雅は興味深そうにその方向を見たが、美しい後ろ姿しか見えなかった。