第632章 私はあなたの許しを必要としない

夏川清美はダニエルのその「お姉さん」という言葉に一瞬言葉を失った。

「彼女は目覚めていますか?」夏川清美はダニエルの言葉を無視して、直接尋ねた。

「はい、目が覚めてからずっとあなたを待っています」ダニエルは夏川清美の反応を観察し続けていた。

夏川清美は頷き、結城陽祐の方を向いて「外で待っていてくれる?」と言った。

結城陽祐は少し不満そうだったが、それでも「うん」と返事をした。

そして夏川清美はダニエルの方を見た。

ダニエルはそれを見て「お姉さんの旦那さんと外で待っています」と言った。

夏川清美は先ほどダニエルに「お姉さん」と呼ばれた時点で少し受け入れがたかったのに、突然「お姉さんの旦那さん」という言葉を聞いて、信じられない様子でダニエルを振り返った。この人は何を考えているのだろう?しかも、どうしてこんなにも自然に「お姉さん」や「お姉さんの旦那さん」と呼べるのだろう?

むしろ結城陽祐は相手を横目で見て、ダニエルという人物に特に何の感情も持たなかったが、逆に彼の「お姉さんの旦那さん」という呼び方にとても満足していた。

夏川清美はちょうど結城陽祐の表情に目が合い、黙って二人に白眼を向けてから、病室のドアを押し開けた。

夏川弥生は今日、昨日の半睡眠状態とは違って、非常に意識がはっきりしていた。夏川清美を見た時、その目は呆然としており、昨日よりもさらに弱々しく見えた。

その虚弱さは彼女をより一層痩せて見せていた。

夏川清美はそんな夏川弥生を見つめ、一時何を言えばいいのか分からなくなった。

昨日、夏川弥生だと分かった時の衝撃の後、彼女はすぐに冷静さを取り戻した。その時の言葉は感情が抑えきれずに混ざってしまったものの、より多くは相手の身体と精神状態を考慮したものだった。

だからこそ最後に選択肢を投げかけ、夏川弥生自身に彼女を認めるかどうかを選ばせたのだ。

しかし実際、夏川清美自身もあまり確信が持てていなかった。おそらく転生したせいで、彼女は他人より五感が鋭く、患者の生命力も明確に感じ取ることができた。

昨日、彼女は夏川弥生の生命力が非常に薄いことに気付いていた。

これは彼女自身の体調が悪いだけでなく、もう一つの重要な理由は、彼女本人の生きる意欲が非常に弱かったからだ。