夏川清美は「分からない」と言い終わると、病室は針が落ちるほど静かになった。
健二は息を止めていた。
結城陽祐は拳を強く握りしめ、「清美、彼女が何でもやれることは分かっただろう」
「怖くないわ」夏川清美の返事には一切の躊躇いがなかった。
その三文字で結城陽祐の心の準備は崩れかけたが、最後の瞬間に何とか抑えた。もし福田美沙紀と三房だけなら、緊張はするものの、及び腰になるほど恐れることはない。
しかし結城清は違う。
結城家本家との確執は根深く、祖父の代から続いていた。その後、祖父が本家を本流から外したが、様々な妨害に遭い、この争いは彼が結城家の伯父と結城武を刑務所に送り、結城清が不慮の事故で障害者になるまで続いた。
その後、結城清は京都を離れ、ずっとフランスに住んでいたが、十年の潜伏の末に突然帰国したのは、結城武親子の出所と関係があるはずだ。