318- さようなら

マラは小さな鞄に荷物を詰めていた。一方タリアは涙を抑えるのに必死だった。「彼が行ってしまうのね。ついに、マラ、彼が行ってしまうの」彼女は涙を拭ったが、頬には更に涙が流れ落ちた。「どうして彼らはここに来たの?他のどこかへ行けばよかったのに」

「私、警告したでしょう?」マラはタリアに尋ね、二人で作った城を見つめた。

マラは、いつまた友人に会えるのか分からなかった。彼は普通の人間ではなく、ビジネスの天才だった。

どうして彼らは気付かなかったのだろう?どうして見抜けなかったのだろう?彼の一挙手一投足が、上流中産階級や上流階級の出身ではないことを示していたのに。

彼はエリート層の出身だったのだ。

悲しかったが、心の奥では彼のことを喜んでもいた。裕福な家族なら、彼の記憶を取り戻すためにお金を使えるだろう。あるいは、家族に会えば全てを思い出すかもしれない。

「タリア、そのイチゴソースを彼の鞄に入れる?」マラは尋ねたが、タリアは聞こえないふりをした。

「ほら、分かってるでしょう。彼はここの人間じゃないの。彼のために喜んであげましょう」タリアは頑固そうに顔を横に向けた。

部屋の外で話し合われていることは、全て聞こえていた。

「みんな、彼の鞄は用意できた?」ジョンが鞄について尋ねるために部屋に入ってきた。アレックス、つまりラファエルは何も持っていきたくないと言ったが、ジョンは彼にきちんとした鞄を持たせたかった。

彼らは貧しいかもしれないが、誇り、優しさ、寛大さ、そして価値観は持ち合わせていた。

マラはタリアの手を引っ張った。アレックスにさよならを言わなければならない。

***

イーサンはこの状況についていくのが大変だった。ラファエルは自分のことをアレックスと呼び、ジーナをジアナだと思っていた。

そしてジーナは?

彼を訂正するどころか、彼女は同意し、自分がジアナであることを認めてしまった。

ラファエルとジーナの両方が狂ってしまったようだった。

「このまま彼を行かせるのは気が進まないんだ。彼は刺されたんだぞ」木の椅子に座っていたジョンが手を振った。「お前たち二人が彼を殺そうとした犯人かもしれないじゃないか?」

ジーナは彼の心配を理解していたが、ラファエルを見つけたことで、マリッサに自分の無実を証明するチャンスだった。