第55章 他人の知らないことを言わなきゃね

その言葉を聞いて、土屋遥は罵りたい衝動を抑え、冷ややかな目つきで灰原優歌を横目で見た。

この人のせいじゃなければ、毎日授業中に罰書きを書いて、昨日ついに罰書きを書き終えたなんて。

昨夜徹夜で書く必要もなかったのに。

そう考えると、土屋遥は灰原優歌のことがますます読めなくなった。

素直だと言えば、生活指導主任の前で森谷美貴の机を蹴り倒し、川瀬成俊を病院送りにした。

反抗的だと言えば、物理の先生の罰書きを真面目に丁寧に書いている……

「灰原さん、最近……なんだか綺麗になったね」

後ろからの声を聞いて、土屋遥は眉をひそめた。

佐藤知行がこんなに口が上手いとは知らなかった。

しかし。

いらいらしながら振り向いた時、女の子の横顔と目が合い、思わず見とれてしまった。

以前から、新しい隣の席の子が綺麗だということは知っていた。

でも目尻に薄っすらと赤みがさして、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

ここ二日、灰原優歌は生き生きとして、もともと艶やかな目元が、より一層妖艶な魅力を放っていた。

突然。

隣の人が平然と言うのを聞いた。「佐藤、みんなが知らないことを言わなきゃダメでしょ」

土屋遥:「……」

しばらくして。

授業が始まると。

物理の先生は整然と書かれた二つの罰書きを受け取り、とても満足そうだった。

両手にそれぞれ罰書きを持ち、笑いながら言った。「見ただろう?

お前が不良だろうが、学校一の美人だろうが、私、越智哲彰の罰書きは絶対に逃がさない」

土屋遥:「……」

灰原優歌:「……」

越智先生は常に厳格で公平だということは、みんな分かっていた。しかし、今回みんなを驚かせたのは、越智先生が今学期の授業委員に灰原優歌を選んだことだった。

これまで、越智先生の授業委員は常にクラスで最高得点を取った生徒が務めていた。

これまで一年半連続で物理の授業委員を務めていた女の子は、急に表情が曇り、また灰原優歌を見た。

授業が終わると。

その女子生徒は気持ちを抑えきれず、灰原優歌の前まで来た。

そして、女子生徒が見る間もなく、灰原優歌は手に持っていたiPadを引き出しにしまった。

女子生徒は目の奥の暗さを押し隠し、作り笑いを浮かべて言った。

「灰原さん、もし今後物理の質問があったら、教えてもらえますか?」