灰原優歌はまだ何も言わなかった。
佐藤知行は反論した。「灰原さんのお兄さんは、とてもイケメンですよ!」
「柴田裕也のことか?」と土屋遥が尋ねた。
佐藤知行は首を振って、「優歌とは...似てないけど、でも本当に僕が見た中で一番イケメンだよ」
「……」
土屋遥は黙ったまま、薬を塗る手の動きが強くなり、佐藤知行は思わず悲鳴を上げた。
「痛い痛い、優しくして……」
周りの生徒たちは、この会話を聞いて、もはやこの二人の男子を見ていられなかった。
ただ灰原優歌だけが佐藤知行に賞賛のまなざしを向けた。
灰原優歌は頬杖をつきながら、にこやかに言った。「うちのお兄さんは、確かにイケメンよ」
一目見た瞬間から、彼女の理想のタイプだった。
……
放課後。
車内で、柴田裕香は柴田の母の腕にすがりついて甘えた。「ママ、お兄ちゃんにあの投稿のことを追及しないでって言えない?……」
「どうしたの?」
柴田の母は午前中から、柴田裕香が掲示板の件をとても気にしているのを感じていた。
「あの投稿は、私の友達が書いたの。きっと私のために怒ってくれただけで、深く考えずに……」
柴田裕香は悲しそうな表情で、目に涙を浮かべながら、「ママ、私は友達がお兄ちゃんに訴えられるのも、大切な人が傷つくのも嫌なの」
これを聞いて、柴田の母の心は柔らかくなり、愛おしそうに柴田裕香の背中をさすりながら慰めた。「ママは分かってるわ、裕香が一番優しくて孝行な子だってことを。この件は、ママが何とかするわ……」
少し間を置いて、「これからは、友達に優歌と関わらせないようにしてね」
柴田裕香は思わず拳を握りしめた。「ママ……あの子のことが気になるの?」
「あの子は私の実の娘だから、私が申し訳ないと思っているところもあるわ」深いため息をつきながら、落ち着いて言った。「でも、ママの心の中では、やっぱり裕香が一番大切よ」
二年前、灰原優歌が柴田家に戻ってきた時、柴田おじい様が柴田裕香を追い出そうとした時から、柴田の母は灰原優歌を実の娘として愛することができないと分かっていた。
むしろ、柴田裕香のために、柴田の母は灰原優歌に対して反感と敵意を抱くようになった。
もし自分が裕香を守らなければ、裕香は柴田家でどうやって居場所を見つけられるというの?