「……下着」
灰原優歌の声も固くなった。
久保時渡はそれに気づいて、思わず笑みを浮かべた。「全部?」
「ブラ」
灰原優歌は言い終わると、静かに浴室のドアを閉めた。
しかし、すぐに気づいた。清潔なタオルを一枚持って出て、着替えた後に隠して出れば、今ほど気まずくならなかったかもしれない。
灰原優歌:「……」
もう言ってしまったものは仕方ない。
そして。
灰原優歌が安心したその時、彼女は突然、この男性が彼女のクローゼットを開けて、ブラを選ぶという致命的な場面を思い浮かべた。
「……」本当に罪作りだ。
灰原優歌は突然、高嶺の花に手を出してしまったような罪悪感に襲われた。
でも考え直してみれば、こっそりキスまでしてしまった。この罪は、もう既に犯していたのかもしれない。
しばらくして。
灰原優歌が妄想に耽っているとき、ドアがノックされた。
「優歌?」
灰原優歌が中から少し隙間を開けると、男性の翡翠のように長い指が、黒いブラを持って差し入れてきた。
この鮮明な色の対比が、目に痛い。
そして何故か艶めかしい。
灰原優歌が受け取る時、横目で見ると、ちょうど男性の優美な横顔が見え、きちんと仕立てられたスーツ姿は、上品で冷たい印象だった。
しかし、この艶めかしく甘い雰囲気と、強烈なコントラストを成していた。
まるで神壇から引きずり下ろされた神のように。
灰原優歌は目を伏せ、重要な品を受け取ったが、どうしても手が熱く感じられた。
特に先ほど、男性が持っていたショルダーストラップの部分が。
「先に出ていくよ」
「はい」
灰原優歌はすぐに着替え始めた。
そしてこの時。
既に寝室のドアを閉めた久保時渡も、いつもの怠惰な様子はなかった。
先ほど、久保時渡はドア前で苗木おばさんに電話をかけ、本来なら苗木おばさんに灰原優歌の下着を持ってきてもらおうと思っていた。結局のところ、これは少女の肌着で、男である彼が触れるべきものではなかった。
しかし思いがけず、苗木おばさんは奥様に呼ばれて、料理の研究をしているとのことだった。
結果として、彼も自ら取りに行くしかなかった。
……
十数分後。
久保時渡は灰原優歌が降りてこないのを見て、彼女からのメッセージを受け取った。
【お兄さん、大事な話は明日にしましょう】