薄田京香がまだ目を逸らす間もないうちに、突然上階から見覚えのある人物が降りてきた。
灰原優歌。
彼女は思わず拳を握りしめ、目つきが変わった。
さっき灰原優歌は最上階から降りてきたの!?
このビルの最上階のVIPルームは2室しかない。そのうちの1室は久保時渡のために用意されたはずだ。
もう1室は、誰が予約したのかまだ分からない。
でも柴田家であるはずがない。
なのに灰原優歌がなぜ最上階の専用エレベーターから降りてきたの!?
そしてこの時。
灰原優歌は薄田京香の視線に気付かず、少し苛立った様子で電話をかけていた。
「まだ着かないの?」
「ちょっと待って、もう少しだから、急いでるから」電話の向こうの人も、一本の電話で飛んでこられたらいいのにと思っているようだった。
彼はようやくドレイニーの方から、灰原優歌が今日はティッキーに授業をせず、オークションに参加していることを知った。