灰原優歌は目を伏せたまま、少女の表情も見ずに、だらしなく手を伸ばしてクロワッサンを取った。
「あなたも永徳の生徒?」
このどうでもいいような怠惰な様子は、昔飼っていたラグドール猫にそっくりだった。
「違うわ、私は一中よ」
少女は付け加えた。「留年生」
「私もよ」
灰原優歌はクロワッサンを一口かじり、思わずまた少女を見た。「一中は永徳から近いの?」
「そんなに遠くないわ」
少女は何かを思い出したように笑って言った。「前に、私の母の店で買い物したことない?母が永徳の近くで店を借りてるの」
灰原優歌は少女の顔立ちをじっくり見た。確かに似ている。
「うん」
灰原優歌は返事をして、少し考えてから「美味しかった」と付け加えた。
「私、鈴木遥っていうの」
「灰原優歌」
灰原優歌はようやく鈴木遥をしっかりと見た。