柴田陸信の声には感情が感じられず、ただ淡々とエンジニアたちが問題解決を試みる様子を見つめていた。
灰原優歌が入室すると、テーブルの上の黒いバラの花束が目に入った。
「社長、お嬢様がいらっしゃいました」
立花凛冶が告げた。
その声を聞いて。
柴田陸信が振り向くと、灰原優歌がここに来るとは思っていなかった。
灰原優歌は周りを見回し、何気なく黒いバラを手に取ると、隣のゴミ箱に投げ捨て、近くの席に座った。
「ここで少し遊んでもいい?」
周りの人々は、灰原優歌が柴田陸信に尋ねることもなく黒いバラを捨ててしまったのを見て、思わずまぶたが痙攣した。
しかし、さらに意外だったのは、柴田陸信が灰原優歌のその行動を全く気にせず、むしろ低く潤んだ声で優しく応じたことだった。
「いいよ」