もちろん彼と同じ部屋に住むわ!
そうしないと彼の母親が疑いを持ってしまう。今は両親に離婚のことを知られるわけにはいかないの。
もし知られたら……
東山裕は目を細めて、「早く荷物を片付けろ!」と言った。
そう言うと、彼は部屋を出て、別の部屋で休むことにした。
海野桜は何も反対せず、すぐにメイドに荷物を全部片付けるよう指示した。
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東山裕の両親も福岡市に住んでいたが、彼らとは少し距離があった。
時々、彼女は東山裕について実家に食事に行き、両親に会いに行っていた。
東山裕の父は威厳とカリスマ性のある男性で、「東山」グループの創設者だった。
母親の鴻野美鈴は、かつて福岡市一の美人と言われ、学識も教養も優れていた。
東山裕は両親の全ての長所を受け継ぎ、完璧すぎるほどの人物だった。
海野桜は家柄と容姿以外は、何も取り柄がなかった。
でも幸い、東山裕の母親は彼女を嫌うことなく、よく接してくれた。
海野桜も彼女との付き合いを心配する必要はなかった。
ただ、彼女をうまく対応して、離婚の件を気付かれないようにすればよかった。
……
鴻野美鈴は時間通りに、11時過ぎに到着した。
東山裕と海野桜は直接玄関まで出迎えた。
鴻野美鈴は豪華なロールスロイスから降りてきた。その気品と優雅さは、まるで不老の女神のようだった。
彼女は今や60歳近いが、40代くらいにしか見えず、体型も肌も手入れが行き届いていて、海野桜は本当に感心した。
「母さん」東山裕は彼女を見て、敬意を込めて呼びかけたが、表情は変わらなかった。
海野桜も続いて「お母様」と呼んだ。
鴻野美鈴はわざと不満そうに言った。「私の息子は母親に会っても嬉しくないみたいね。どうしていつもそんな冷たい顔をしているの?母親に会ったら笑顔を見せなさい、わかる?」
東山裕は「……」
「まあいいわ、あなたは全然可愛くないわね。桜ちゃんの方が可愛いわ」鴻野美鈴は海野桜の手を取り、嬉しそうに言った。「桜ちゃん、母さん、随分会ってなかったわね。最近はどう?どうして家に食事に来ないの?いつも催促しないと来てくれないのね」
「私は……」海野桜は急に何と答えていいかわからなくなった。