東山裕は目を光らせ、何も言わずに携帯を取り出して海野桜に電話をかけた。
「申し訳ございません。お客様のお電話は現在電源が切れています…」
携帯を収めると、東山裕は秘書に命じた。「ドアを開けに行かせなさい。」
「はい。」
他の人たちは笑うことも出来ず、明らかに何か異常を感じ取っていた。
「社長、私たちは先に部屋に戻ります。」
東山裕は頷き、淡々と笑って言った。「今日は皆さんお疲れ様でした。夜はゆっくり祝いましょう。」
「社長もお疲れ様でした…」
皆が次々と去っていく中、林馨は残りたかったが、理由がなかった。
しかし彼女は賢く、何が起きたのか大体察していた。
きっと社長が海野桜を連れて行かなかったため、彼女が怒って出て行ったのだろう。
林馨は海野桜と何度か接触したことがあり、彼女の性格をよく知っていた。ちょっとしたことですぐに火がつく性格だった。
今回社長が彼女を連れて行かなかったのは、彼女が何も出来ないし、物事を台無しにすることを恐れたからだろう。
どうしてそんなに物分かりが悪くて、すぐに出て行ってしまうのだろう…
林馨は歩きながら考えていた。結局のところ、彼女の心の中では常に海野桜を見下していた。
そして案の定、ホテルのスタッフが来てドアを開けると、中は空っぽで誰もいなかった。
海野桜の荷物も全て消えていた!
秘書は呆然として「奥様はどこへ?」
しかし東山裕は少しも驚いた様子もなく、特に反応も示さなかった。
彼は山田大川に命じた。「海野桜が航空券を予約したか調べろ。」
「はい!」
山田大川はすぐに調べ上げた。「社長、奥様は確かに30分前の便を予約していました。飛行機は既に離陸しています!」
東山裕は窓際に立ち、振り返ってただ淡々と頷いた。「分かった、下がっていい。」
「社長、奥様は…」山田大川が何か言おうとしたが、遮られた。
「彼女のことは放っておけ。今夜の祝賀会の準備をしろ。招待すべき人は漏らすな。」
「はい!」
山田大川は心の中で疑問に思った。奥様が無断で出て行ったのに、社長は全く反応を示さず、まるで気にしていないようだった。
もしかして本当に二人の間に感情はなく、離婚するつもりなのだろうか?
彼には分からなかったが、海野桜の出奔は東山裕の予想通りだった。