大切な瞬間

翌朝。

早朝、ベラはいつものように運動の準備をしてランニングウェアを着た。

1階に降りると、ノーラが両手に何かを持って裏庭に向かっているのが目に入った。

「外で何かあったの、ノーラ？」急いで外に向かう彼女を見て尋ねた。

ノーラはベラの声に驚いて振り向いた。「おはようございます、お嬢様。坊ちゃまにこの水筒を持って行かなければ...」

「えっ！？ダックスがもう起きてるの！？でもまだ6時よ...外で何してるの？」

ノーラはベラの反応に少し驚いた。昨日、確かに伝えたはずだった。

「お嬢様、申し訳ありませんが、私のメッセージはご覧になりましたか？昨日、メッセージでお伝えしたのですが...」

ベラは申し訳なく感じた。

昨日はアンドレアス・コービーの件で忙しすぎて、携帯電話をほとんど確認していなかった。この情報を見逃していたようだ。

戸惑うベラを見てノーラは微笑んだ。

「...ダックス坊ちゃまは今日から武道の稽古を始められました。先輩と一緒に、もう10分ほど外で始めていらっしゃいます。見に行かれますか？」

ベラは何も言わずにうなずき、裏口へ向かった。裏庭に着くと、ダックスと武道の先生が練習場にいるのを見て驚いた。

屋外テラスの近くにトリスタンが立ち、ダックスを見つめているのも目に入った。この大切な瞬間を知らなかったことに、さらに後悔を感じた。

「やあ、おはよう、ベラ...」彼女を見かけたトリスタンが春のような笑顔で挨拶した。

ベラは不満げな表情で挨拶を返した。息子の武道の初レッスンという大切な日を、もっと早く見に来られなかったことを悔やんでいた。

彼の隣に立ち、今は武道の先生について走っているダックスに目を向けた。

「これのこと、教えてくれればよかったのに、トリスタン」

トリスタンはようやく、なぜベラがこんなに暗い様子なのか理解した。息子の大切な日のことを知らなかったようだ。

「知ってると思ってたよ...」彼は彼女に微笑みかけ、彼女の視線の先を追った。

ベラは彼の言葉に反応しなかった。ダックスを見て、それから先生を見た。数秒後、ダックスを指導している男性を見て驚いた。

「どうしてあの人見覚えがあるの？」彼女は目を細めて男性を見ながらつぶやいた。

ダックスと男性が彼らの方向を向いて振り返った時、ベラは言葉を失うほど驚いた。