201 搭乗

「渡部社長、奥様、搭乗の準備が整いました。どうぞこちらへ」渡部グループの社長秘書の田中が恭しく一行に声をかけた。

渡部グループの幹部も数人同行していた。

「行こうか」小島一馬は矢崎粟に微笑みかけながら言った。

矢崎粟は頷き、アクセサリーをハンドバッグに入れ、小島心の後に続いた。

機内に入ると、矢崎粟は彼らの座席が隣り合わせになっていることに気付いた。わざとそう手配したのだろう。

小島一馬の席は、矢崎粟の隣だった。

全員が着席した後、搭乗口から一行が入ってきた。先頭の男は五十歳ほどで、太って顔が大きく、足取りがおぼつかなく、元気がなさそうに見えた。

矢崎粟が調べた情報によると、この人物が川上家当主のはずだった。

彼は酒色に溺れ、しょっちゅう女遊びをしており、年々体調を崩していた。そのため、川上家の主な決定権は川上夕子の手に渡っていた。