「渡部社長、奥様、搭乗の準備が整いました。どうぞこちらへ」渡部グループの社長秘書の田中が恭しく一行に声をかけた。
渡部グループの幹部も数人同行していた。
「行こうか」小島一馬は矢崎粟に微笑みかけながら言った。
矢崎粟は頷き、アクセサリーをハンドバッグに入れ、小島心の後に続いた。
機内に入ると、矢崎粟は彼らの座席が隣り合わせになっていることに気付いた。わざとそう手配したのだろう。
小島一馬の席は、矢崎粟の隣だった。
全員が着席した後、搭乗口から一行が入ってきた。先頭の男は五十歳ほどで、太って顔が大きく、足取りがおぼつかなく、元気がなさそうに見えた。
矢崎粟が調べた情報によると、この人物が川上家当主のはずだった。
彼は酒色に溺れ、しょっちゅう女遊びをしており、年々体調を崩していた。そのため、川上家の主な決定権は川上夕子の手に渡っていた。
相貌から見て、この男は七十歳まで生きられないだろう。
川上海未は大きなお腹を突き出し、小刻みに歩きながら、額に汗を浮かべていた。
その後ろには、シンプルで機能的な服装をした女性が続いていた。優しげな容姿だが、目つきには冷酷さが漂っていた。
相貌から判断すると、彼女は間違いなく冷酷無比な女性だった。
付き合いづらい性格に違いない。
矢崎粟がよく見ると、彼女が矢崎美緒と何らかの繋がりがあることに気付いた。矢崎美緒の異母姉妹のようだった。
これは面白い展開になってきた。
矢崎粟も予想していなかったが、背後の人物にはこれほど多くの子供がいて、各大家族に配置されているとは。
このような子供が一体何人いるのか、それは分からない。
続いて、うつむき加減の女性が入ってきた。容姿は悪くないが、厚い前髪に隠れ、黒縁メガネをかけていた。
これが川上家の本当の令嬢、川上燕に違いない。とても臆病そうに見えた。
しかし矢崎粟は彼女の相貌から、彼女が決して臆病な人間ではなく、むしろ勇気のある人物だと見抜いた。
これは深く考えるべき点だった。
その中には一体どんな秘密が隠されているのか。
矢崎粟は二人の間で視線を行き来させ、最後に指で占うと、二人の運気が共生共存の関係にあることを発見した。
そのうちの一人が、自ら進んで相手に運気を与えているのだ。
その人物は間違いなく川上燕だった。