249 負けても損はない

矢崎正宗も配信を見ていて、小林美登里の不満を聞いた後、冷たい声で言った。「忘れないでくれ。矢崎粟はとっくに矢崎家と縁を切っているんだ。私たちとは別の家族なんだから、矢崎家の面子を立てる必要なんてないんだ」

認めざるを得ないが、矢崎粟のこの一手は矢崎正宗も感心せざるを得なかった。

さすが矢崎家の子供だ。勇気と知恵を兼ね備えており、矢崎粟は全てを適切に準備していた。

この録音を、矢崎粟は早くから保管していたのだ。

彼女は適切なタイミングを待っていただけだった。三男が番組の放送開始直後に、録音を公開する機会を与えてくれるとは思わなかった。さらにこの回は最終回で、視聴者数も膨大だった。

矢崎粟は天の時、地の利、人の和を掴んでおり、矢崎家は今回負けても惜しくなかった。

録音を公開したことで、バラエティ番組の出演枠が誰のものだったのかを明らかにしただけでなく、矢崎粟の矢崎家での立場も衆目に晒すことになった。

一般の視聴者でさえも、矢崎粟に同情するだろう。

認めざるを得ないが、矢崎粟は本当に賢かった。

録音を通じて、矢崎正宗は息子たちの矢崎美緒に対する態度が普通の兄妹以上に親密すぎることに気付いた。

しかも電話の中で、息子たちはあまりにも愚かだった。

矢崎美緒にそそのかされただけで、矢崎粟にバラエティ番組の機会を諦めさせようとし、悪名を背負っただけでなく、矢崎粟と家族との関係も壊してしまった。

矢崎正宗の表情は険しかった。認めたくはなかったが、事実として、息子たちは愚かすぎた。矢崎粟の小指一本にも及ばなかった。

最後に、そして矢崎正宗が発見した最も重要な問題は、矢崎美緒が非常に策略家だということだった。

矢崎美緒は三男が非難されているのを見ても、三男の後ろに隠れて無実を装い、可哀想な様子を見せていた。

愚かな三男は矢崎美緒に利用され、最後には罪を背負わされることになった。

矢崎正宗は目を暗くし、画面の矢崎美緒を見つめながら、静かに何かを考えていた。

一方、矢崎泰は矢崎弘のオフィスに入り、彼も配信を見ているのを確認すると、笑って言った。「さっきの録音、聞いたか?」

矢崎泰は、今の矢崎弘が以前の自分をどう思うのか見たかった。

矢崎弘は彼が来るのを見て、イヤホンを外し、配信の音声を流した。