261 恩を仇で返す

矢崎美緒は涙を拭いながら、人の少ない方へと足早に向かった。

通行人に泣いている姿を見られたくなかった。

あの小島一馬のバカ野郎、全然話が通じない!

全部矢崎粟のせいだ!

きっと矢崎粟が小島一馬の前で自分の悪口を言いふらしたから、小島一馬が自分をこんなに嫌うようになったんだ。

配信のコメント欄は大荒れになった。

矢崎美緒の一部のファンがコメントで小島一馬を罵り始めた。矢崎美緒の方法を試してもいないのに否定し、紳士的な態度もなく、矢崎美緒を人格攻撃したと。

小島一馬は女性を尊重していないとまで言った。

しかし、視聴者の大半は小島一馬の味方だった。

矢崎美緒の泣き虫な態度が嫌われるのは当然として、矢崎若菜のような頭の悪さも見ていて不快だった。

二人がチームを離れたことで、多くの視聴者はほっとした。

矢崎若菜は慎重に慰めの言葉をかけ続け、やっと矢崎美緒の機嫌が直った。その間、二人は小島一馬の悪口を散々言い合った。

二人は少し休憩を取った後、矢崎若菜は制作スタッフに小道具を借りに行った。

中華街で古筝の演奏に観客が集まらないはずがない。そんなことはありえない。

どんなに少なくても、一日の稼ぎで宿泊費と食事代くらいは賄えるはずだ!

矢崎若菜は自信満々で、一仕事やってやろうと意気込んでいた。

矢崎美緒は頷いて、「お兄ちゃんの言う通りよ。私、お兄ちゃんの言うことは全部聞くわ」と言った。

たとえこの企画が失敗しても、矢崎若菜が前に立って責任を取ってくれる。

もし儲かったら、それは自分の功績になる。

矢崎美緒はそこまで考えていた。

配信を見ていた矢崎弘は、この聞き覚えのある一言を聞いて、思わず体が震えた。

このフレーズは너무 馴染みがある。

矢崎弘が彼女のために何かをするたびに、矢崎美緒は必ずこのフレーズを口にしていた。

以前は気づかなかったが、今ならわかる。これは兄弟たちを身代わりにする言葉だったのだ。

自分はなんてバカだったんだ?

こんなに明らかな言葉なのに、矢崎美緒の下心に気づかなかった。

今気づいて良かった。

矢崎弘は配信画面の矢崎若菜を見て、心の中で哀れんだ。

同時に、矢崎弘は胸が苦しくなった。以前の自分は矢崎美緒を甘やかしすぎて、彼女に運気を吸い取られそうになっていた。

まさに恩を仇で返すようなものだ。