470 東京に残る

先ほど彼女は見てきましたが、このアパートは2LDKで、二人で住んでも全く窮屈ではありません。

小さなベランダもあり、可愛い植物がたくさん植えられています。

ここのすべてを、矢野朱里はとても気に入っています。

矢崎粟は笑顔で頷きました。

矢野朱里は心配そうに矢崎粟を見つめ、おそるおそる尋ねました。「矢崎家とは今どんな関係なの?」

彼女は番組を見ていたので、矢崎粟が家族と絶縁したことを知っていました。

当時、矢野朱里が矢崎粟と知り合った頃、矢崎粟はまだ孤児で、家庭の温もりを心から求めていました。

矢野朱里が留学を決めた年、彼女は矢崎粟に付き添って矢崎家との親子確認をしました。

同時に、矢野朱里は安心していました。自分が出国した後も、矢崎家の人々が矢崎粟の面倒を見てくれるので、彼女が寂しい思いをすることはないだろうと。

しかし思いもよらなかったことに、あの人たちは矢崎粟をいじめていたのです。

矢崎粟は淡々と言いました。「全部絶縁したわ。これからも二度と認め合うことはないし、今は一人で十分うまくやっているから」

矢野朱里は知っていました。矢崎粟がかつてどれほど家族の愛を求めていたかを。

今こんなにも冷淡にそれを語るということは、きっとあの人たちに深く傷つけられたのでしょう。

矢野朱里は頷き、矢崎粟の手を握って言いました。「粟、心配しないで。これからは私があなたの家族よ。私にも両親はいないし、家の年長者たちも私のことを好きじゃない。私たちは似たような境遇だから、あなたは一人じゃないわ」

矢崎粟の心は温かくなりました。「うん、じゃあ私たち家族ね」

家族。なんと遠く手の届かない言葉でしょう。

矢崎粟は尋ねました。「東京にはどのくらいいるの?」

矢野朱里は迷わず答えました。「ずっとここにいるわ。もう留学はしない。あなたと一緒にいると安心できるから」

この言葉に、矢崎粟は少し驚きました。

彼女は尋ねました。「森田廣も帰国したの?」

矢野朱里は首を振りました。「いいえ、彼はまだ向こうよ。帰国するにはまだ数年かかるでしょうね。もう彼の後を追いかけるのは止めたの」

森田廣は東京の森田家の御曹司で、矢野朱里が幼い頃から好きだった人です。

彼女が留学したのも、森田廣の足跡を追うためでした。