川上燕はまた尋ねた。「粟さん、実は最近、他の事務所のタレントたちから、まだ人を募集しているかどうか探りを入れられているんですが、この人たちもまだ受け入れられますか?」
何人かのタレントの素質は悪くなく、採用しないのはもったいないと思われた。
矢崎粟は頷いて言った。「もちろんよ。私たちの事務所は拡大する必要があるから、矢崎家のタレントだけでなく、他所のタレントも受け入れるわ。タレントが増えれば、マネージャーも足りなくなるから、新しいマネージャーも募集しないといけないわね。この件はあなたに任せるわ!」
川上燕は少し考えてから、躊躇いがちに尋ねた。「もし私たちが他の事務所で冷遇されているタレントを受け入れたら、他の事務所が手を組んで私たちの事務所を圧迫してくることはないでしょうか?」
彼女はこの件で業界全体の敵になることを恐れていた。
矢崎粟は深刻な声で言った。「大丈夫よ。あなたはただタレントを受け入れることに専念して。きちんと調査した上で、誰も何の事務所も恐れることはないわ。私たちは冷遇されているタレントを受け入れるだけで、積極的に引き抜きをしているわけじゃない。悪質な競争でもないし、芸能界のルールに違反しているわけでもない。たとえ誰かがこれを問題にしても、それは筋が通らないわ。もっと自信を持って大胆にやりなさい。」
川上燕はようやく安心し、頷いて言った。「分かりました。これからは精一杯タレントの獲得に努めます。」
話し合いの後、矢崎粟は川上燕、田中凛、渡辺露と一緒に昼食を取ることにした。四人は仕事面での息の合い具合が増すだけでなく、感情面でもますます親密になっていった。
その後の一週間で、矢崎粟の事務所は矢崎家から大勢のタレントを受け入れた。
この行動は、業界関係者を本当に驚かせた。
多くの人々は矢崎粟の度胸に感心した。矢崎家と対抗する勇気があるとは。
一方、矢崎家は嘲笑の的となった。彼らの調整策はタレントたちをさらに遠ざける結果となり、まさに愚策だった!
何もしない方がまだましで、無駄に笑い者になっただけだった。
鈴木大翔は社長室で顔を歪めるほど怒り、机の上の書類を全て床に投げ捨てた。それだけでは足りず、関連部署の部長たちに電話をかけて罵倒した。
何をしても、胸の中にわだかまりが残っていた。