矢野寿は嘲笑を浮かべながら、何も言わなかった。彼は明らかに澤蘭子の考えを見抜いており、相手にする気がなかった。
その時、一行が応接室を出て、執事が横で案内していた。
「こちらへどうぞ。」
矢野寿は既に指示を出していた。玄学管理所の者が来たら、すぐに通すようにと。
先頭を歩いていたのは原東で、表情は冷酷だった。
一行が入ってきて、矢崎粟もその中にいた。彼女は玄学管理所の職員で、この事件に関わり、重要な証拠も提供していた。
応接室にいた人々は全員そちらを見た。
澤蘭子は驚いた表情で、何が起きているのか分からなかった。
矢野寿は立ち上がり、原東に向かって言った。「原部長、よくいらっしゃいました。」
原東は頷き、玄学管理所の身分証を取り出して、応接室の人々に見せた。「これが私の身分証です。今回は重大事件の黒幕を逮捕しに来ました。」
「数日間の取り調べで、呪術師の藤村慎一が自白し、我々は背後の主犯の証拠も掴みました。今から逮捕に来たのです!」
澤蘭子は額に汗が浮かび、様々な考えが頭の中を駆け巡った。
まさか自分を逮捕しに来たのではないだろうか?あの人は藤村慎一の件は自分に及ばないと言っていたのに。矢野家で安心して暮らせると言われていたのに。
どうしてこんなことに!
原東は澤蘭子を見つめ、冷たい目で言った。「矢野夫人、私と来ていただけますか!」
この言葉を聞いた瞬間、澤蘭子の心の糸は切れ、顔が一気に青ざめ、驚愕の表情を浮かべた。
まさか本当に自分のことが分かってしまったの?
どうすればいい!
澤蘭子は藁にもすがる思いで、素早く矢野寿の袖を掴み、慌てた様子で言った。「あなた、私は何もしていません。彼らが嘘を言っているんです。助けて、私が逮捕されるなんてありえません。私は矢野夫人なのよ!」
もし本当に逮捕されたら、セレブ社会の笑い者になってしまう。
たとえ後で釈放されても、人生に汚点が付いてしまう。これまでセレブ社会に入り込むために払った努力が全て無駄になってしまう。
彼女は矢野夫人、矢野家の長男の妻なのだ!
澤家を復興させ、お金持ちの社会に引き上げなければならないのに。
この瞬間、澤蘭子は自分の夢が砕け散るのを感じた。