907 不運

矢崎粟は説明した。「矢崎美緒に近づかなければ、恋人煞をかけられる機会はないはずです」

死にたいなら、誰のせいでしょうか?

矢野朱里は思わず笑った。「はははは……あなたたちが矢崎美緒を死ぬほど愛している様子を想像すると、面白くて仕方がないわ」

四人はしばらく相談を続けた。

昼時、矢崎粟は別荘に戻って食事をした。

午後一時半、四人は時間通りに病院に来た。

四人は隣の病室を借り、森田廣の病室に隠しカメラを設置した。

二時。

吉村久真子は時間通りに病室に来た。

彼女は病室に入り、ドアを閉めて、にこやかに言った。「あなた、来たわよ。私のこと、恋しかった?」

隣の部屋で、矢崎粟たち四人が画面に釘付けになっていた。

矢野常は吉村久真子の様子を見て、背筋が寒くなった。「森田廣が彼女に好かれるなんて、本当に不運だな!」

画面の中。

吉村久真子は森田廣の手を取り、優しく撫でながら言った。「あなた、もうすぐ私のことを心から愛するようになるわ。心の中で抵抗しても無駄よ」

「大人しく従った方がいいわ。きっと私たち、幸せになれるから」

「あなた、矢野朱里なんかのことは忘れてちょうだい。あの女、あなたが命を懸けるほどの価値なんてないわ」

そう言いながら、彼女の目から涙がぽろぽろと落ちた。

数年前、彼女は堀信雄に命じられて森田廣のもとにスパイとして送り込まれたが、この数年の間に、知らず知らずのうちに彼に深く恋をしてしまった。

森田廣が彼女と一緒にいてくれさえすれば、それで満足だった。

しかし思いがけないことに、森田廣の心は彼女を強く拒絶していた。

吉村久真子は、彼が自分に冷たいことを恨み、また矢野朱里への深い愛情も恨んでいた。

半月前、森田廣は父親と継母を追い出し、森田家の全てを手に入れた。

森田家の分家が説明を求めてきた。

森田廣は継母が他人と密通していた証拠を提示し、さらに父親が暗殺者を差し向けた証拠も提示した。

こうして、森田廣は家主の座を確固たるものにした。

多くの人々は、森田廣があまりにも早く地位を得たのは、吉村久真子が裏で支援したからだと噂していた。

それらの噂は全て嘘だった。

吉村久真子は何もしておらず、あっという間に家族が追い出されるのを見ていただけだった。