第71章:彼女は黒川浩二を好きだけど、黒川浩二は彼女を好きになるのか?

iPadはロック画面ではなく、ホーム画面の壁紙は男性が少女の傷の手当てをしている絵でした。漫画風のタッチで描かれていましたが、佐藤薫は一目で絵の中の人物が誰なのかわかりました。

「ほら!まだ知らんぷりするの?」

坂本加奈は明らかに動揺した様子で、iPadをロックしてしっかりと抱きしめ、小さな唇を尖らせて「蘭ちゃん……」と言いました。

佐藤薫は指でふくれた頬をつついて、すぐにしぼんでしまいました……

「黒川浩二のことが好きなら好きでいいじゃない、認めるのに何を恥ずかしがってるの?」

坂本加奈は机に伏せて、カールした長いまつ毛が少し震え、気持ちが沈んでいる様子で「蘭ちゃん、わからないよ……」と言いました。

佐藤薫も机に伏せて、我慢強く「じゃあ、話してみて」と言いました。

坂本加奈は横目で彼女を見て、唇を噛んで「蘭ちゃん、私もいつから始まったのかわからないの。気づいた時にはもう遅くて、でも私は彼のことを好きになっちゃいけないはずなの」

飛行機の中であんな夢を見なければ、黒川浩二に対する気持ちがいつ変わったのか気づかなかったかもしれません。

以前、林翔平と付き合っていた時は、こんな夢を見たことはありませんでした。

「どうして?」佐藤薫は眉をひそめ、首を傾げました。

「私、林翔平との婚約を解消したばかりなのに、こんなに早く他の人を好きになるなんて」坂本加奈は憂鬱そうに言いました。「私、いつからこんな浮気性になっちゃったの?」

「今どきの時代に!林翔平との婚約解消後に黒川浩二のことを好きになったんでしょ?浮気でも二股でもないじゃない!何を悩んで後ろめたく思ってるの!」

佐藤薫は深いため息をつき、もどかしそうに言いました。「お願いだから、あの黒川浩二よ?お金もあって、イケメンじゃない!惚れちゃうのは当たり前でしょ。他の人だったら、とっくに恋に落ちて、死ぬほど好きになってるわよ」

坂本加奈はまばたきをして、興味深そうに聞きました。「じゃあ、蘭ちゃんは黒川浩二のこと好きなの?」

佐藤薫は言葉に詰まり、目を天に向けそうになりました。「私、病気じゃないから、親友の旦那さんを好きになったりしないわよ!それに黒川浩二のあの目つき、人を見る時の目が刃物みたいなのに、どんな気が狂った人が好きになるのよ!」