黒川浩二は黙って何も言わなかった。
坂本加奈は自分のレモン水を見下ろしながら、昨夜最後に何が起こったのか気になって仕方がなかった。
困ったことに、どうしても思い出せない。
黒川浩二は静かに彼女の眉をひそめる様子を見つめていた。時に悔しそうに、時に挫折した表情を浮かべ、時には少し嬉しそうな表情を見せる。
少女の心の内は分からないが、彼女が悩んでいることは自分に関係があるのだろうと漠然と感じ、思わず気分が良くなった。
坂本加奈は一杯の水を飲み干しても昨夜のことを思い出せなかったが、彼が承諾したかどうか確信が持てず、迷った末に自ら切り出した。「昨夜、私があなたを追いかけることを許してくれたよね!」
黒川浩二は一瞬驚き、すぐに理解した。彼女は記憶が途切れているのか?
坂本加奈は彼が黙っているのを見て、すぐに真面目な顔つきになり、厳しく言った。「あ、あなた...私が酔っていたから覚えていないと思わないでください。覚えていますよ!」
「何を覚えているんだ?」黒川浩二は呆れながらも面白く思い、彼女が一晩寝て全て忘れてしまい、自分の前で上手く演技しようとしているのが可笑しかった。
坂本加奈は頬を赤らめ、コップを爪で摘みながら、非常に恥ずかしそうに囁いた。「キスしましたよね...」
黒川浩二は眉を上げた。どうやらキスの前までのことは覚えているが、キスの後のことは綺麗さっぱり忘れているようだ。
「キスしたということは、承諾してくれたということですよね」坂本加奈は勇気を振り絞って顔を上げ、輝く瞳で彼を見つめた。「もう後悔はできませんよ」
黒川浩二は可笑しく思った。なぜ彼女は、キスしたことが追いかけることを許可したということであって、直接の承諾ではないと思うのだろう?
長い指で眉間を揉みながら、昨夜も聞いた質問を再度した。「どうやって追いかけるつもりだ?」
坂本加奈は耳の後ろを掻きながら、「まだ考えていませんが、きっと真剣に追いかけますから、安心してください」
黒川浩二:「…………」
坂本加奈は顔を上げて彼を見つめ、清潔感のある顔に明るく輝く笑顔が溢れていた。
黒川浩二は密かにため息をつき、まあいい、彼女が楽しければそれでいい。
「朝食を食べに降りよう」