第122話:「手が冷たくない?温めてあげようか?」

少女の声はかすれていたが、柔らかく、暖かい風と共に耳に届き、黒川浩二の心をくすぐった。

彼は気づかれないように顔を背け、何も聞こえなかったかのように大股で食堂に入り、慎重に彼女を椅子に座らせた。

使用人がすぐに夕食を運んできて、退室した。

食堂には二人だけが残り、静かに食事をし、時折食器が触れ合う音が聞こえた。

夕食を終えると、坂本加奈は彼にまた抱き上げられることを恐れ、急いで立ち上がって言った。「先にお風呂に入ってきます。」

旅館の暖房が悪く、この二日間ろくにお風呂に入れていなかったので、食事を済ませた今はゆっくりとお風呂に入りたかった。

黒川浩二は淡々と「うん」と返事をし、何か思い出したように付け加えた。「もう少し待ってからにしろ。食後すぐのお風呂は良くない。今夜は髪も洗うな、風邪がまだ治っていないんだから。」

坂本加奈は素直に頷いた。「はい、分かりました。」

そう言って食堂を出て、とことことと階段を上がっていった。

黒川浩二は軽快な足音を聞きながら、厳しい表情に笑みが浮かび、思わず口角が上がった。

この二日間、彼女が部屋にいない間は静かで寂しく恐ろしいほどだった。今、慣れ親しんだとことこという足音を聞くと、家全体が以前より明るくなったように感じた。

どうやら今後は彼女を長時間外出させるわけにはいかないようだ。

***

坂本加奈は部屋で十数分休んでから、パジャマを持ってバスルームへ行き、ゆっくりとお風呂に入った。髪を洗いたい気持ちはあったが、黒川浩二の言葉を思い出し、その考えを諦めた。

彼も自分のことを考えてのことだし、その好意を無駄にするわけにはいかない。

身支度を整えて部屋に戻り、暖かい布団に潜り込んだ直後にノックの音がして、黒川浩二がコップと薬を手に入ってきた。

「薬を飲んで、早く休め。」

坂本加奈は薬を飲むことに関しては手がかからず、数粒の薬を一口の水で飲み込んだ。

黒川浩二は彼女を寝かせ、布団をかけ直し、部屋の明かりを消して、オレンジ色の柔らかな光を放つフロアランプだけを残した。その声は光よりも優しく、「おやすみ」と言った。

坂本加奈はあくびをして、潤んだ目で「あなたも早く休んでください。明日もお仕事があるでしょう」と言った。