第137章:「もうキスはダメ……」

五万円の現金賞が藤沢蒼汰に当たった。彼は一瞬驚いた後、興奮して分厚い現金の束を抱きしめ、黒川浩二に駆け寄って抱きつきたい衝動に駆られた。

しかし、黒川浩二の冷たい視線を受けると、その衝動を抑え、耳まで裂けそうな笑顔で黒川社長に感謝の言葉を述べた。

次はiPadの抽選。坂本加奈は両手を合わせ、まるで神様を見るように壇上の黒川浩二を見つめ、自分が当選することを願った。

黒川浩二は群衆の中の少女に目を向け、細長い黒い瞳に笑みが浮かんだ。箱から番号を引き出し、薄い唇を開いて「20番」と告げた。

坂本加奈は伏せていた瞼を一瞬上げ、壇上の男性を見つめた。澄んだ瞳は輝きを放ち、スカートの裾を持ち上げながら壇上へと向かった。

内田須美子は五万円を逃したが、坂本加奈はiPadを当てた。心を痛めながらシャンパンを一杯飲み干した。

坂本加奈は黒川浩二から真新しいiPadを受け取り、柔らかな声を潜めて「ありがとうございます」と言った。

黒川浩二は何も言わず、ただiPadを渡す際に指先で意図的に彼女の手の甲に触れ、ゆっくりと、離れがたい様子で。

坂本加奈は何かを感じ取り、嗔むように彼を横目で見た。

黒川浩二はようやく手を離し、ハイヒールを履いた少女が小走りで降りていくのを見送った。眉間にしわを寄せ、人が多くなければ、きっと彼女を引き止めていただろう。

走るなんて、転んでしまうじゃないか。

内田須美子は社長と社長夫人が公の場で目配せし合うのを見て、レモンの木のように酸っぱい気持ちになった。「五万円は他人のもの、恋も他人のもの、うぅ……」

坂本真理子は彼女を横目で見て、「五万円がそんなに欲しいなら、藤沢蒼汰と妥協すればいいじゃない」と言った。

内田須美子は彼を白い目で見て、「私が五万円のために自分を売るような人間だと思う?それに藤沢蒼汰はこの内務総管みたいな人だし、私と彼じゃまるで餌付けみたいじゃない!」

ちょうど近づいてきた藤沢蒼汰は「…………」

本来なら食事に誘おうと思っていたのに、よし、お金が節約できた!

坂本加奈は小走りで戻ってきて、大切そうにiPadを抱きしめながら嬉しそうに言った。「今回のiPadは最新モデルなのよ。今年は本当に運がいいわ!」

彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、壇上から男性の冷たい声が響いた。「250番」