第168章:おばあちゃん

坂本加奈は実際食欲がなく、ただ黒川浩二の言葉を聞いて、無理して一口一口食べていた。

空っぽの胃は温かくて柔らかいお粥で心地よくなるどころか、むしろ胃が痙攣して捻じれているように感じた。

次の瞬間、彼女はすぐにゴミ箱に向かって嘔吐し始めた。

黒川浩二は瞳を引き締め、急いで茶碗を置き、身を乗り出して彼女の背中を優しく叩いた。

坂本加奈は胃の中身を全て吐き出し、黄疸まで吐き出しそうになってようやく止まった。

彼はコップを彼女の口元に差し出し、「うがいして」と言った。

坂本加奈は一口飲んで口に含み、しばらくしてから吐き出し、振り向いて彼の首に抱きついた。まるでカンガルーの赤ちゃんが母親の袋の中に隠れるように、彼の胸元に顔を埋めた。

黒川浩二は彼女の自分への依存を感じ取り、嬉しくもあり心配でもあった。大きな手で彼女の背中を優しく撫で、頬にキスをして「つらい?医者を呼んで診てもらう?」と尋ねた。

坂本加奈はゆっくりと首を振った。

黒川浩二は彼女が医者も病院も嫌いなことを知っていた。おそらく以前のECT治療でトラウマを負ったのだろう。たとえ忘れていても、そのトラウマは骨の髄まで刻み込まれ、本能的な拒絶反応として残っていた。

「じゃあ、眠りたい?それとも映画でも見る?何でも付き合うよ?」低くかすれた声で優しくあやすように言った。外で見せる冷たく孤高な態度は微塵もなかった。

今の彼は胸に溢れる愛情を全て見せたくて仕方がなかった。彼女にしっかりと見てもらいたかった。

彼女に、自分がどれだけ彼女を大切に思い、好きなのかを知ってもらいたかった。

坂本加奈はまた首を振り、彼の首筋に顔を埋めたまま何も言わなかった。

黒川浩二はビジネスの世界では人心を操り、危機を乗り越える術を心得ていたが、今この何も言わず、心の内を探ることもできない少女の前では為す術もなかった。

ただひたすら譲歩し、飽きることなく彼女をあやし続けた。

「何か思いついたら、教えてね?」

坂本加奈は彼の首をきつく抱きしめたまま黙っていた。カールした睫毛がゆっくりと下がり、目を閉じた。

彼女が話したがらないなら、黒川浩二は無理強いしなかった。食べられないなら、それも強要しなかった。どうしても駄目なら、医者を呼んで点滴を打つしかなかった。