これは黒川詩織の思惑通りだった!!!
森口花と黒川詩織が予約した回は人が少なく、彼らはすぐに入ることができた。
佐藤薫は絵画に興味がなく、休憩スペースでスマートフォンをいじったり、ゲームをしたりしていた。
坂本加奈は一人でギャラリーに入り、壁に掛かった絵をゆっくりと鑑賞し、気に入った作品の前では足を止めて、しばらく見入っていた。
横から誰かが近づいてきて、坂本加奈は反射的に後ろに下がって道を譲ろうとしたが、背中が壁にぶつかり、足も何かを踏んでしまった。
「すみません、申し訳ありません……」
振り向くと少年の整った顔立ちが目に入ったが、その表情は少しふてぶてしげだった。「この絵、そんなに良かった?見入っちゃってたみたいだけど!」
坂本加奈は申し訳なさそうな目で、再び謝罪した。「本当にすみません、わざとじゃなくて。」
「いいよ。」少年はガムを噛みながら、不遜な態度で言った。「俺の地球を踏んでくれたってことで。」
坂本加奈は大きな目をパチパチさせて、そんな言い方があるの???
少年は彼女の抜けた表情を横目で見て、さらに尋ねた。「本当にこの絵いいと思う?血なまぐさくて暴力的で、気持ち悪くないの?」
「この絵は一見血なまぐさくて暴力的に見えますが、描いた人は絶対に暴力的な人じゃないはずです。きっと心の中はとても優しいんです。」坂本加奈は壁の絵を見つめながら言った。彼女は絵画を学んでいるので、絵の中に込められた本当の意味がわかるのだった。
少年の目に何かが一瞬よぎった。「ねぇ、君の名前は?」
「坂本加奈です。」
「奈津子?」少年は眉をひそめた。「なんて変な名前だ!」
「奈津子じゃなくて、加奈です。鹿鳴の加奈です。第一声です。」坂本加奈は説明した。
加奈と奈津子はだいぶ違うでしょう。
「どうでもいいや!」少年は気にせず言った。「これからは奈津子って呼ぶからな。」
坂本加奈は眉をピクリとさせた。随分と馴れ馴れしいんだな!
「私は……」
話し始めたところで遮られた。「俺は西村雄一郎。海野兄さんか海野様って呼んでいいよ。ねぇ、どこの高校?今日は授業サボり?」
「私は大学生です。多分あなたより年上かもしれません。」坂本加奈は眉をひそめた。高校生に間違われるのは構わないが、「子供」と呼ばれるのは嫌だった。