第203話:悪くなる

「おばあさま……」坂本加奈は心を見透かされ、頬が赤くなった。

上野美里は娘を庇って、「お母さん、加奈が休みの時くらい、浩二と恋愛を楽しませてあげてください」と取り繕った。

坂本おばあさまは照れ隠しに、「私なんか嫉妬してないわよ、そんなこと言わないで」と言った。

「はいはい、嫉妬なんてしてませんよね」上野美里は彼女にコップの水を渡しながら、娘の方を見て「最近元気?」と尋ねた。

「とても元気よ」坂本加奈は顔を輝かせ、生き生きとしていて、とても幸せそうだった。

「それならよかった」上野美里は持ってきたフルーツバスケットを手に取り、「果物を洗ってくるわね」と言った。

坂本加奈は自分で行くと言ったが、上野美里に止められ、おばあさまと一緒にいるように言われた。

上野美里がキッチンに入り、ドアを閉めると、病室には祖母と孫の二人だけが残された。

坂本おばあさまは彼女をじっと見つめ、「正直に言いなさい、黒川くんはあなたに優しくしてくれてる?」

「とても優しいわ」坂本加奈はなぜそんなことを聞くのか分からず、「おばあさま、どうしたの?」

「あの女性と子供のことは一体どういうこと?」坂本おばあさまの笑顔が消え、表情が厳しくなった。

「おばあさま、どうしてそれを?」普通なら兄さんがおばあさまの前でそんなことを話すはずがないのに。

「どうして知ったかは関係ないわ。正直に話しなさい、ごまかさないで」

「私がおばあさまをごまかすなんて」坂本加奈は諦めたような笑みを浮かべ、「安藤お嬢様は浩二の親友の彼女で、母子が可哀想だから世話をしているだけよ。それって普通のことじゃない?」

「黒川くんは表面は冷たそうだけど、心の優しい子なのよ。ただ、背負っているものが重すぎるわね」坂本おばあさまはため息をついた。

「おばあさま、私は浩二を信じています」坂本加奈の声は甘かったが、弱々しくはなく、むしろある種の強い意志を感じさせた。

「あなたったら……」坂本おばあさまは思わず彼女の頭を軽くたたき、「黒川くんを信じているのはいいけど、油断は禁物よ。人の心は読めないものだし、二人の関係は信頼だけでなく、丁寧に育てていかなければならないの。よからぬ人に隙を与えてはいけないわ」