第216章:寵愛を恃む

「ごめんなさい……」

坂本加奈は今日、彼の説明や謝罪を聞きに来たわけではなかった。

おばあちゃんの死は彼が原因で、「ごめんなさい」の一言で済むことではなかった。

「林翔平さん、謝らなくていいわ。謝るべき相手は私のおばあちゃんで、私じゃない」坂本加奈は機械的に唇を引き攣らせた。「でも、もう聞くことはできないわね」

林翔平は唇を強く噛みしめ、罪悪感と不安に満ちた眼差しで彼女を見つめた。

「林翔平さん、あなたが誰と揉め事を起こしたのか、なぜ内村里美さんにこの件が私たちの仕業だと誤解させたのか、分からないわ」

坂本加奈は目を伏せ、自分の爪を弄びながら、彼の腫れ上がった青あざのある顔を見上げた。瞳には感情の揺らぎは一切なかった。

「でもこの件は確かに私たちとは無関係よ。あなたが殴られた理由なんて気にしないけど、おばあちゃんが亡くなったこと、このままじゃ済まないわ」

「加奈——」林翔平は何かを悟ったように、喉が締まった。

坂本加奈は深く息を吸い、残酷な笑みを浮かべた。「林翔平さん、私があなたとの結婚を承諾した理由、知ってる?」

林翔平は眉をひそめ、困惑した表情で、なぜ突然話題を変えたのか理解できないようだった。

「私が結婚を承諾したのは、幼い頃からの婚約があったからじゃない。あの日の出会いで、あなたが私に傘をくれた。その傘は、私が前に持っていたものと全く同じだったの」

「その傘は、私の人生で最も暗く絶望的な時期に、誰かが私にくれたもの。私はずっと、あなたがその人だと思っていた……」

林翔平の瞳孔が突然震え、次第に大きくなっていった。坂本加奈の言葉から瞬時に何かを理解したようだった。

「お、お前は傘をくれた人を好きだったのか!」

「もちろん好きよ。あの人がいなかったら、私はもう死んでいたかもしれない」坂本加奈は残酷なほど正直に答え、薄紅の唇を軽く歪めた。「私は一度も本当にあなたのことを好きになったことはないわ、林翔平さん」

林翔平の顔は紙のように青ざめ、瞳は虚ろで、複雑さと衝撃が入り混じり、信じられない様子だった。

この数年間、彼女が好きだった人は自分ではなかった。彼女が愛情に満ちた眼差しで自分を見つめていた時も、実は自分を見ていたわけではなかった……

坂本加奈は指の皮を強く引っ張った。力が入りすぎて、指の端の皮も破れ、血が滲んできた。