坂本真理子は嘲笑って言った。「女の子のことを全然分かってないね。トイレに一緒に行くのが大好きで、行ったら十数分もかかるし、手を洗うだけでもハンドクリームの話で長々と盛り上がるんだから」
薄田正は、自分の望月源太郎の女を娶ろうとしている彼との会話を避けたかったが、黒川浩二に尋ねた。「見に行かないの?」
黒川浩二はグラスを回しながら、伏せていた目を上げて坂本真理子を一瞥した。「必要ない。今は他人の尻拭いで忙しいから」
薄田正は坂本真理子の方を向いた。
二人の男に見つめられ、厚顔無恥な坂本真理子も居心地が悪くなり、組んでいた足を下ろした。「なんでそんな目で見てるんだよ?俺の方がお前らよりイケメンだって認めるのそんなに難しいか?」
「ふん」薄田正は、坂本真理子が子供の頃栄養失調で発育が悪かったに違いないと思った。だから頭がおかしいのだろう。
一方、黒川浩二は視線を逸らし、知能に欠陥のある人間を相手にする気はなかった。
坂本真理子は空になったグラスを黒川浩二の前に投げ出した。「義兄に酒を注がないのか」
黒川浩二は顔を上げ、黒い瞳に冷たい光を宿らせた。
坂本真理子は軽く咳払いをした。「まあいいや、俺は寛容な人間だから、お前のことは大目に見てやる」
自分で自分のグラスに酒を満たした。
黒川浩二は一杯飲み干すとグラスを置き、薄い唇を開いた。「安藤美緒のことは、お前が手を出す必要はない」
安藤美緒の処遇に困っているとはいえ、坂本真理子に色仕掛けで犠牲になってもらう必要はないということだ。
坂本真理子は冷笑し、皮肉を込めて言った。「自分に都合のいい解釈をするな!俺は本当に彼女のことが好きになったんだ。真面目に付き合いたいと思ってる。お前と加奈には関係ない!」
「お前、前は安藤美緒みたいな女が一番嫌いだったじゃないか?」薄田正は首を傾げた。「そういうタイプは味気ないって言ってたのに、どうして急に性格が変わったんだ?」
「肉ばかり食べてたから、今は野菜も食べたくなったんだよ。それがいけないのか?」坂本真理子は強い態度で、きっぱりと言い切った。「とにかく俺は安藤美緒と結婚する。お前らは結婚式に来るのを待ってればいい。来なくても構わない、気持ちだけでも」
黒川浩二は深い闇を秘めた瞳で彼をしばらく見つめ、薄い唇から二文字を漏らした。「勝手に」