第256章:もし女の子なら

坂本真理子は以前、彼女を嫌っていたものの、優しくしてくれたこともあった。

ただ、後になって辛い感情が無限に拡大され、彼女自身も坂本真理子が優しくしてくれたことを忘れてしまっていた。

上野美里は思い出して苦笑いを浮かべた。「誰に似たのかしら。確かに人のためを思ってるのに、口に出して言わないなんて。最初から口の利けない子を産んでいれば良かったわ」

坂本加奈は俯いて微笑み、突然口を開いた。「お母さん、もし兄さんが本当に離婚して子持ちの人を好きになったら、反対するの?」

「それは...」上野美里の動きが止まり、一瞬どう答えればいいか分からなくなった。

女性として、離婚して子供がいることは大したことではないし、汚点とも言えないことは分かっている。でも自分の息子が再婚で子持ちの人と結婚するとなると、心が落ち着かず、胸が詰まる思いだった。

普段は嫌がっていても、やはり自分の子供にはもっと良い相手が相応しいと思ってしまう。

「お母さん、兄さんが再婚で子持ちの人と、男性のどちらを好きになる方が受け入れやすい?」坂本加奈がさらに尋ねた。

上野美里は眉をひそめた。「それなら女性の方がましね」

彼女は開放的な考えを持っているが、息子が男性を連れて帰ってくるのを受け入れられるほどではなかった。

坂本加奈は笑った。「だからね、少なくとも兄さんの性的指向は問題ないんだから、何を心配してるの!」

上野美里は彼女を睨んだ。「あなたったら...」

...

二階の書斎にて。

坂本健司は筆を置き、黒川浩二に自分の字を見せた。「どうだ?」

「素晴らしいです」黒川浩二は普段お世辞を言うことに慣れていなかった。というのも、普段は彼がお世辞を言われる側だったからだ。しかし義父の前では、少し建前を言わざるを得なかった。

多くの名筆の真跡を見てきた彼にとって、義父の字は子供の遊びのように見えた。

坂本健司はタオルで手を拭い、彼を隣に座らせてお茶を勧めた。

「お世辞を言う必要はない。自分の実力は分かっているよ」

黒川浩二は茶碗を持ち上げて軽く一口すすり、何も言わなかった。

坂本健司も茶をすすり、茶碗を置くと、意味深な眼差しで彼を見た。「最近、会社に多くの案件が入ってきているが、君の仕業だろう」