第348章:湖に落ちた人

黒川詩織の表情が微かに変化し、瞳の奥に一瞬の迷いが浮かんだが、唇を引き締めて何も言わなかった。

「あなたは私の娘の心臓を入れられた器に過ぎないのに、本当に自分を黒川家のお嬢様だと思っているの?」白川櫻の表情は冷たく、極めて皮肉めいていた。「あなたは美月じゃない、永遠に美月にはなれない。その資格もないわ」

坂本加奈は驚いて彼女を見下ろした。「岩崎...」

黒川詩織は一瞬うつむいた後、顔を上げると普段の率直さと誠実さを取り戻した。

「そうよ、黒川美月の心臓が私に移植されたのは事実です。彼女の心臓のおかげで今日まで生きられた。でも、それがどうしたの!」

彼女は顔を上げ、幼い顔に落ち着いた表情を浮かべ、堂々と言った。「私は一度も黒川美月になろうとは思っていません。彼女は彼女、私は私。私は黒川詩織で、誰かの代わりなんかじゃありません!お兄さんも私を黒川美月として扱ったことなんてない。ただ、元の家で居場所がなかった私を哀れに思って、そばで育ててくれただけです!」