「大丈夫よ、休暇になったら帰ってこられるし、会社に用事がなければパリに行って暫く一緒に住むこともできるわ」
ただ、長期滞在は現実的ではなかった。
坂本加奈は夢で見た光景が脳裏をよぎり、目を伏せたまま、躊躇いがちな表情で「でも——」
言葉が終わらないうちに、黒川浩二は突然彼女の唇にキスをした。
言葉は途切れた。
黒川浩二は唇を触れ合わせただけで、次の動きはなく、優しくも抑制的だった。
「行くか行かないか、選択権は君にある。どんな決定をしても私は尊重するよ」彼は後ろに下がり、彼女との距離を取り、目と目が合い、その眼差しは熱く優しく、まるで空で一番輝く星のようだった。
「ただ、よく考えてほしい。後で少しでも後悔してほしくない。今、私のために夢を諦めたことを後悔してほしくないんだ」