第392章:新鋭画家

月の光が白く輝き、夜風が優しく吹き、彼女の長い髪を乱し、西村雄一郎の心も乱した。

「好きだからだよ!バカ!」言葉が口まで出かかったが、一文字一文字を噛み砕いて飲み込み、胸いっぱいの愛情を抑え込んで、冷たい声を装って。

「もちろん母のためだよ。もし母が本当にお前を殺したら、黒川浩二は母を生きた心地がしないようにするだろうからね。」

坂本加奈の濃い長いまつ毛が軽く動き、密かにほっとため息をついた。「そうなんですね...」

「他に何があると?」西村雄一郎は嘲笑うように笑った。「まさか、俺がお前のことを命を捨てるほど好きだと思ってたのか?」

坂本加奈は即座に首を振った。「ただ分からないんです。私のことを嫌っているようなのに、でも私が困ったときはいつも側にいて、助けてくれる。」

西村雄一郎は背後に隠した手で、手首の数珠をゆっくりと回しながら、嫌そうな様子で言った。「前世でお前に借りがあったんだろう。今世はお前に出会って借りを返させられ、面倒ばかりかけられる。」

坂本加奈は眉をひそめ、小声で反論した。「私は面倒なんかかけていません。面倒が私を探してくるんです。」

「いいから、早く上がれよ。」西村雄一郎は顎をしゃくって示した。

「あなたは?」坂本加奈は尋ねた。

「タバコを一本吸ってから上がる。足立さんはうるさくて、家の中で吸わせてくれないんだ。」西村雄一郎は眉をひそめ、イライラした表情を浮かべた。

「女性の前でタバコを吸わないのは紳士的な行為です。それに彼女は足立さんで、おばあさんじゃありません。」坂本加奈は彼を睨みつけた。「親切に安い家賃で部屋を貸してくれているのに、人を尊重する気持ちもないなんて!」

「分かったよ、うるさいな!」西村雄一郎は手を振った。「早く上がって、お前の浩二のところに行けよ!」

坂本加奈は突然思い出したように、「そうだ、浩二がビデオ通話を待っているんでした!」

そう言うと、すぐに階段を上がって行った。

西村雄一郎は彼女の急ぐ様子を見て、胸が針で刺されるような痛みを感じた。濃い睫毛が瞳の奥に一瞬よぎった寂しさを隠し、意味深な笑みを浮かべた。

彼は車のボンネットに腰掛け、タバコを一本取り出して火をつけ、一服吸って夜空を見上げた。白い煙が薄い唇からゆっくりと漂い出し、輪を描いて消えていった。