黒川麻美は表情を取り戻し、冷たい声で言った。「久しぶりね」
高橋穂高は入ってきてから坂本加奈の姿が見えなかったため、尋ねるしかなかった。「私は坂本加奈の先生です。今日の昼は用事があって結婚式に参加できなかったので、彼女に謝りたいと思って」
「ああ、それなら自分で彼女に電話してください」黒川麻美は冷淡な表情で、さらに冷たい口調で言った。「もし繋がればの話ですけど!」
高橋穂高は眉間にしわを寄せたが、彼女の冷淡で敵意のある態度にはあまり反応せず、中谷仁の方を見た。「中谷さん……」
中谷仁は墨都に戻ってから派手に活動し、経済誌の寵児となっており、墨都の人々は彼を知らないわけにはいかなかった。
中谷仁は軽く頷いて挨拶とし、「彼らは一日中忙しかったので疲れています。まだ休んでいます。今晩の宴会はご自由にどうぞ」
高橋穂高は「ありがとうございます」と言って、横の方へ歩いていった。
黒川麻美は冷たい目で彼の後ろ姿を見送り、顔には軽蔑の色が浮かんでいた。
中谷仁は何かを察したようで、「元カレ?」
黒川麻美はグラスを持ち上げて一気に飲み干し、空のグラスを彼の手に渡しながら冷淡な口調で言った。「目上の人の事だから、あなたが口を出す事じゃないわ」
言い終わると、高橋穂高とは反対方向に歩いていった。
中谷仁は眉を上げ、手の中の空グラスを見た。グラスの縁には薄い口紅の跡が付いており、薄い唇に意味深な笑みが浮かんだ。
どんな年齢の女性も、気取って本心を隠すのが好きなものだ。
***
宴会場では華やかな衣装に身を包んだ人々が行き交い、杯を交わし合う賑やかな雰囲気の中、新郎新婦の部屋はようやく静けさを取り戻していた。
坂本加奈はカーペットの上でぐったりとし、全身から力が抜け、指一本動かす気力もなかった。
男性は後ろから彼女を抱きしめ、唇を彼女の耳に寄せて、甘く囁いた。「加奈、愛してる」
坂本加奈は彼の胸に寄りかかり、まるでオジギソウのように丸まっていた。額には汗が滲み、頬の紅潮は闇に隠れていた。
まだ激しく鼓動する心臓は、彼の言葉でさらに加速した。
彼女は乾いた唇を噛んで、小さな声で抗議した。「ひどすぎよ」
彼女の意思に関係なく、窓際で、床の上で、彼女の肌を燃え上がらせ、何度も快感の渦に沈ませた。