第417章:私を捨てるの

黒川浩二は蛇口を閉め、横を向いて彼を見つめた。瞳は静かで鋭く、薄い唇を開いて、一言一言はっきりと言った。「もし彼女に何かあったら、私は死ぬまで後悔する」

西村雄一郎は坂本加奈が目覚める前に去っていった。

以前なら彼はまだ心配し、心の底に卑劣な期待を抱いていただろう。

いつか黒川浩二の彼女への愛が今ほど熱くなくなることを、彼らの愛が現実に打ち負かされることを期待していた。そうすれば自分にもまだ少しは、自分の愛を抱きしめるチャンスがあるのではないかと。

しかし今日の黒川浩二の言葉で、彼は明確に、そして悲しい現実を認識した。

黒川浩二の坂本加奈への愛は決して自分より少なくなることはない。そして自分の愛は永遠に実を結ぶことはないのだ。

西村雄一郎は広い道路を走り続けた。午後の日差しがフロントガラスを通して、ハンドルを握る彼の手に落ちていた。

手首の数珠は静かに、かすかな白檀の香りを漂わせていた。

仏は説く、苦海無辺、回頭是岸と。

しかし彼はこの虚しい愛の中にすでに溺れ、抜け出すことができなかった。

黒川浩二は食器を洗い終えて階段を上がった。坂本加奈はピンクの蚊帳の中で安らかに眠っており、長い髪が背中に広がり、まるで眠れる森の美女のようだった。

彼は蚊帳を開け、身を屈めて彼女の頬にキスをした。

坂本加奈は何かを感じ取り、手で押しのけようとし、頭を掛け布団の中に潜り込ませた。

黒川浩二は掛け布団をめくり、身を屈めて彼女の唇を探した。

坂本加奈は彼に起こされ、もごもごと尋ねた。「雄一郎さん...んん...」

言葉が終わる前に、黒川浩二は彼女の唇を塞ぎ、話す機会を与えなかった。

窓の外の日差しは良く、部屋の中の春の光はさらに良かった。

黒川浩二は彼女を抱きしめ、愛おしそうに唇にキスを重ね、甘い声で何度も飽きることなく呼びかけた。「加奈、加奈...」

この人生で、彼にはこの加奈がいれば十分だった。

***

黒川浩二が坂本加奈の異変に気付いたのは一ヶ月後のことだった。普段は最も活発な彼女が最近元気がなかった。

いつも暑がり、いつもお腹が空いていると言い、そしていつも眠たがっていた。

黒川浩二は心配で、彼女を病院に連れて行って検査をしようとした。