佐藤薫は目を伏せ、グラスの底を見つめながら呟いた。「私の青春を魅了した人。」
坂本真理子は心が十個のレモンを食べたように酸っぱくなったが、表情には出さず、「ふん!何が青春を魅了したって、私だって青葉を緑にしたわよ。」
佐藤薫は顔を上げて彼を一瞥したが、何も言わなかった。
「じゃあ、なんで二人は付き合わなかったの?彼は君のことが好きじゃなかったの?」坂本真理子は更に追及した。
佐藤薫は彼の鋭い目と向き合い、躊躇いながら頷いた。「うん、彼は私のことが好きじゃなかった!彼のことを好きな女の子はたくさんいて、彼が指一本動かすだけで、無数の女の子が彼のために命を懸けようとするのに、私は何者でもなかった。彼は私のことが好きじゃなかった、むしろ嫌っていたくらい。」
「それは彼の目が節穴だからだよ。彼が君のことを好きじゃないなら、君も彼のことを好きにならなければいい。」
佐藤薫は再び大きく酒を飲み、笑いながら頷いた。「そうね、だから私は一生彼のことを好きにならないって決めたの。たとえ彼が膝をついて泣いて私に好きになってくれって言っても、もう二度と好きにはならない。」
「よくやった。」坂本真理子は彼女の言葉に満足し、嬉しそうに乾杯した。
「彼があの言葉を言った時から、私は彼のことを好きになるべきじゃなかった。告白した日に、彼が背を向けて去った時から、もう好きじゃなくなった。他の女のために私に手を上げようとした時から、もう二度と好きになることはできなかった……」
あの一撃は最後には彼女の顔には当たらなかったが、心に深く刻まれ、人生に烙印を押された。
海外に行った二年間、彼女はよく夢を見た。坂本真理子が自分に手を上げる夢を。
時には平手打ちが下りる前に目が覚め、時には平手打ちが顔に当たって、泣きながら目を覚ました。
それが全て夢だと気付いて、さらに激しく泣いた。
だから、坂本真理子、あなたが私に好きになれって言っても、受け入れろって言っても、私にはできるわけがない。
あなたへの好意と愛は、三年前にあなたによって使い果たされてしまった。
きれいさっぱり消え去って、何も残っていない。
佐藤薫は赤ワインを数杯飲み、頬は赤く染まり、目は潤んでいた。顔には笑みを浮かべていたが、目の奥には濃い霧と悲しみが漂っていた……